李 貞善さん/大学院生

李 貞善(イ・ジョン・ソン)さん 東京大学大学院人文社会系研究科

認定級 マイスター・1級・2級・3級

李 貞善 ( イ・ジョン・ソン ) さん

東京大学大学院人文社会系研究科 文化資源学研究専攻(文化経営)

世界遺産を通じて日本と韓国の架け橋になりたい

―― 李さんは2015年に文部科学省の国費外国人留学生として韓国から来日し、現在は東京大学で人文社会学を研究されています。留学のきっかけ、現在の研究テーマを教えてください。

 子どもの頃から日本の文化に興味があり、大学では日本文学を専攻しました。卒業後は韓国の企業で働いていましたが、「日本に留学して学問を究めたい」という夢をあきらめきれず、年齢制限ギリギリの34歳の時に留学試験を受けました。

 修士論文の研究テーマは、「世界遺産登録における不均衡の研究」でした。世界遺産の登録には、その国の経済状態や文化財の保護に関する知見を持った人材の有無、国際社会における力関係などさまざまな原因によって不均衡が生じることがあります。それらを明らかにして、登録制度を公正に保つための方法を模索しています。さらに、観光資源の観点からどうしたら遺産の魅力を広く国際社会に発信できるか、その方法についても研究しています。

「日本の世界遺産のなかでも特に好きなのは京都です。先日、母の還暦のお祝いには京都を案内しました」

―― 2018年には最難関のマイスターも合格されました。なぜ世界遺産検定を受検しようと思ったのですか?

 検定の存在は、書店で偶然テキストとパンフレットを見つけて知りました。世界遺産検定の勉強は、自身の研究に必要な世界遺産の基礎知識を養うのに役立つだろうと思い受検を決めました。研究で世界遺産を扱っていたとはいえ、検定の勉強はまた別の難しさがありました。例えば、遺産を学ぶときには、その遺産に関わる歴史的な出来事も学ぶ必要があります。日本であれば中学校の日本史の授業で習う出来事でも留学生の自分にとっては初めて耳にする単語だったり…。テキストを読むときは日本語で読んで、頭の中でハングルや英語に内容を置き換えて理解するようにしていたのですが、勉強中は何度も辞書を引いていましたね。

 世界遺産を勉強すればするほど、その魅力を再確認し、遺産をめぐるさまざまな問題を解決する必要があること、ひいては自分の研究を全うすることで世界遺産を守っていきたいという思いが強くなりました。

―― 世界遺産検定は、旅行系の専門学校に通う留学生など、外国人の方の受検も増えています。李さんご自身は世界遺産の知識を、今後どのような形で活かしていきたいとお考えですか?

 当面の目標は日本での留学期間中に、本来の目的である世界遺産をテーマにした博士論文を書きあげることです。検定の勉強で得た知識は、その際に大いに役立つでしょう。また、将来的には世界遺産の登録や保存に貢献できる研究者になりたいと思っています。韓国でも世界遺産は旅行スポットとして人気がありますが、日本の世界遺産検定のように遺産への知識を深める制度・チャンスはなかなかありません。韓国政府に、国民へ世界遺産の意義や価値をより深く知ってもらうような機会を提案するのも面白いかもしれません。

 日本と韓国は、お寺ひとつの建築方法をとってみても、似ている点があれば異なる点もあります。そういった文化の違いを両国へ発信しつつ、世界遺産を通じて日本と韓国の架け橋になることも夢の1つですね。

(2018年11月)