認定級 2級
中山けーしょー さん
イラストレーター
―― 中山さんはこれまでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?
高校を卒業後、漫画家になりたくて美大に進学したのですが、アニメ作りなんかに没頭しているうちに教授と衝突し5年次で中退しました(笑)。その後、漫画家のアシスタントや漫画の持ち込み生活をしていましたが、結婚を機に就職。印刷会社や広告代理店、求人誌の編集部で制作やデザインの業務に従事しながら、副業としてイラストを描いていました。そんな中、『三国志』(全10巻/小前亮著/理論社刊)の挿絵と表紙の話をいただき、2009年にイラストレーターとして独立しました。現在はそれまでの経験も活かしてイラストやデザインをメインに、取材やライティングなども一通り手がけています。
―― 世界遺産検定を受検されたのは、お仕事がきっかけだったそうですね。
はい。世界遺産をテーマにした児童向けの迷路の本(『めいろ日本一周 自然の世界遺産をさがせ!』『めいろ日本一周 歴史の世界遺産をさがせ!』/静山社刊)の制作を、誌面構成から取材、執筆、作画、写真手配、版下データ作成までまるごと一冊、引き受けることになったんです。
どの遺産をどのように迷路にするか、どんな情報を織り込むのか。ただ迷路を楽しんでもらうだけでなく、子どもたちに「世界遺産とは」をどう説明するかを考えた時、世界遺産の知識はまず不可欠だと思い受検することにしました。4級から2級までのテキストに目を通し、どうにか2級まで読めたのでいきなり2級に挑戦しました。勉強法としては、ひたすらテキストを読み込みましたね。また仕事も兼ねてですが、世界遺産をイラスト化したりもしました。
―― 世界遺産の知識は本づくりにどのように役立ちましたか?
『めいろ日本一周』のターゲットは小学校高学年でした。誌面は4級のテキストに準ずる内容で構成しましたが、巻末の世界遺産についてくわしく解説するコーナーでは、2級までのテキストに登場する遺産から、遺産の意義や選ばれた経緯などを鑑みて写真をセレクトし、掲載しました。
イラストを描く仕事は、世界遺産をはじめとする歴史的建造物のモチーフに接する機会が少なくありません。ゲームの背景などはヨーロッパの歴史的な建物を参考することが多いです。例えばポケモンのゲームにも『フォース鉄道橋』をモチーフにした橋が登場します。また最近、妖怪をテーマにした本『日本の怖い妖怪』(全3巻/ほるぷ出版刊)を上梓したのですが、熊野古道や姫路城天守を住処にしているとされる妖怪もいます。そんな時も世界遺産の知識は役立ちます。いつも仕事と一緒に世界遺産があるように感じています。
―― 行ってみたい世界遺産はありますか?
日本の遺産ならやはり熊野古道ですね。妖怪を描いていた時、資料に何度も出てきましたし、日本の昔ながらの伝承や思想をより深く知りたいと思います。海外ではフランスの『カルカッソンヌの歴史的城塞都市』や「モン・サン・ミシェル」など、冒険ものや戦闘ものの漫画に登場するような、実際の石の質感や空気感を体感してみたいです。そこを歩いてみて、その場所でないと得られないものが感じられるのではないでしょうか。
―― 世界遺産を学ぶ人や、イラストレーターを目指す人にメッセージはありますか?
私たちは日本についてすら知らない部分もたくさんありますが、世界の様々な文化や考え方、歴史を知ることで、逆に日本という国をより理解することができます。人生において、より多くの知識や理解が、より多くの感動をもたらしてくれることは間違いありません。
何も世界遺産だけが世界の素晴らしいものというわけではありませんが、世界遺産という「記号」にすることで、シンプルに理解しやすく、象徴化される部分もあります。そしてこの「記号」という要素がイラストに力を与えてくれる気がするのです。
私は世界遺産という制度が作られた背景に、もう二度と戦争を起こさないようにしようというユネスコの思いがあることを、初めて知りました。イラストで何かを表現するということは、そういった文章にすると少し説教くさく感じることをいかに「楽しく」学べるかたちにできるか。写真では伝えられないイラストならではの表現方法がいくつもあります。建てられた当時の様子を再現したり、普段見ることのできない内部を描写したり、楽しく伝えられるのはイラストならでは。人生、楽しんだもの勝ちですからね!
(2021年2月)