認定級 マイスター・プラチナ・ シルバー
三坂 史子 さん
主婦
―― 世界遺産検定は「知的な遊び」とのことですが
私は50代まで生粋の主婦でした。良い家庭に恵まれて、子供たちも無事大きくなって、なかなか幸せだと思います。英語が趣味で勉強を続けていましたが、家の外でお金を稼ぐ仕事をしたことはありませんでした。でも家庭を切り盛りしながら、個人として心惹かれる「何か」を、ずっと探していたような気がします。
そうやって自家製パン作りや陶芸などいろんなことを試しているうちに世界遺産に出会ったのです。やっと探していたものを見つけた、と思いました。新しく世界遺産を知ってその美しさに感動し、更にそこをなぜ守っているか、その建物はどんな想いで作られたかを知って感動する。この年齢になると色々なことに予測がついてしまい、心をそんなに揺すぶられることが少なくなるのですが、世界遺産は新鮮な情動を与えてくれました。マイスターに至るまで、試験勉強というのも久しぶりで楽しかったです。毎日公式テキストを数箇所ずつ読んだり、ノートに全ての世界遺産名を書いてみたりしました。資格を取って稼ごうとか、そういう実利面については全く考えていなかったですね。
主婦もそうでない人も、夫や子供・会社のためでない、自分のためだけの純粋な楽しみが必要なのではないでしょうか。いまは偶然講師もできていますが、私にとって世界遺産を学ぶ楽しみは、それぞれの世界遺産とかかわった揺ぎない思いを持った人々と時空を超えて出会い、対話することなのです。
―― 10代に外国で暮らしていたとうかがいました
私は父が商社マンだったので、まだ平和だった頃のコロンビアや、インドネシアに駐在していたことがあります。1970年代のコロンビア現地校に通っている頃は、豊かな人もいる一方、路上でお金を乞う人もたくさんいる社会を見ました。また、80年代のあふれる日本マネーによってダムが作られる過程で、付近のマングローブの森が全て切られるのを見、しかしそのダムが人々の暮らしを助けたりするのも知りました。そういう原体験は、日本にいる自分からは見えない世界でも何かが起こっている、見ようとしないものは決して見えないという常識を自分の中に染み込ませ、子育てをしていても「社会への関心を持ち続けたい」と、思う核になっているのではないかと思います。
世界遺産は保護、保全、次世代への橋渡しを目的としているので、今後機会があったら学校で子供たちに対しても、「こんなに楽しくて、でも考えないといけない大事なことがあるんだよ」と伝えたいですね。