【探究課題】沖ノ島や小笠原諸島、ヘンダーソン島などを例に海や海洋資源と人々の共生を考えよう
世界遺産×SDGsチャレンジ!2024年度の探究課題の一つ「沖ノ島や小笠原諸島、ヘンダーソン島などを例に海や海洋資源と人々の共生を考えよう」について、九州大学大学院 工学研究院環境社会部門生態工学研究室の清野准教授にお話を伺いました。記事を読み、課題解決策を考えてください。
九州大学大学院
工学研究院環境社会部門生態工学研究室
清野 聡子 准教授
土木工学の教員として、生き物の保全と人間の居住地の安定性、そして自然保護を通じて人々を災害から守る研究に取り組んでいます。
もともとは動植物の生息や条件、そして砂浜や干潟などの“海岸環境“に関する研究を行っていました。例えばウミガメが砂浜で産卵できるにはどれくらいの砂浜があったら良いか、またカブトガニが干潟で生息していくためにはどのようにしたら良いかなど、動植物の住みかを残すことで海の環境を守っていく研究がベースとなっています。
しかし、生き物(天然記念物など)を守る法律や政策があるにも関わらず、埋め立てやブロック投入等の開発の影響により、動植物の住みかがダメになってしまうケースがあります。このような開発と海岸環境保全の折り合いをどうつけていくのか、「開発と保全の合意形成」が私の専門分野の一つとなりました。
大学での講義のほか宗像や五島列島などで、海洋ごみに関するフィールド調査やワークショップ、海岸のごみ拾い活動を行っています。また地元の人々とプロジェクトを立ち上げ、海岸環境の保全に取り組んでいます。過去には、宗像・沖ノ島の世界遺産登録の後方支援の宗像国際環境会議や海岸調査などにも携わっていました。
宗像・沖ノ島のもつ自然信仰や市民が海を大事に思う心、つまり過去からずっと続いている人と海との関係がまさに自然保護やサステナビリティにつながっていることを、関係者と話し合いながら論理立てていくお手伝いをしていました。その一環として、世界遺産に市民がどう関わるのか。宗像大社の関係者や漁業者など、ステークホルダー以外にその文化を支える市民が海のためにできることとして、ビーチクリーンやごみ拾い活動を続けてきました。
陸上から直接河川に捨てているごみや、街などでポイ捨てしたものが豪雨で河川に流れてくるなど、ごみの不始末が原因です。その中でも川から海へ入ってくるごみが8割といわれていて、海で直接捨てられるというより、圧倒的に川からのごみが多いです。
他にも人気が無いところへの意図的な不法投棄や、有料のリサイクルでお金を払いたくないから捨てるものもあります。ひどいものでいうと、医療廃棄物の注射器などが捨てられ漂着してきたりします。海洋ごみの問題の原因は、陸上の人間の不始末以外何物でもありません。
地域によっても異なりますが、ごみの中でも分解しにくいもの、生活の中で出てくるペットボトルや個別包装のお菓子のフィルム、産業系だと発泡スチロールのごみが目立っています。例えば神奈川や東京は、ポイ捨てごみやお弁当の容器、ペットボトルなどの食品系のごみが多くなります。また道路際には車上から捨てたごみが多く、それが車にひかれて細かくなり、側溝から川に流れて海にたどり着くケースがあります。
そして、対馬や五島列島、宗像など日本海や東シナ海側では大陸からきたごみも多いです。ペットボトルは由来がわかりやすく、海流に乗ってきたり、風に流されたりして各国から漂着してきます。福岡沿岸ですと、日本、中国、韓国それぞれの国のごみが3分の1ぐらいの割合で漂着しています。産業系の発泡スチロールごみは、主に魚の養殖に使っている発泡スチロールごみが粒々の状態や粉々になって大量にやって来ます。
この産業系(主に漁業)の発泡スチロールごみは、日本人の食生活と大きく関係しています。安い養殖の魚をアジアから輸入すると、現地の人々はコストを下げざるを得ないため、環境に配慮している場合ではなくなりました。そこで発泡スチロールを大量に使用して、どんどん使い捨ててしまいます。日本が安く仕入れている背景もあるため、現場の環境配慮ができず、値上げもできない状況でした。
SDGs目標12の「つくる責任、つかう責任」にもつながりますが、海のためにアジアの養殖業者の方々が環境配慮できるくらいの余裕を持ってもらうにはどうしたらよいか、今一度考える必要があります。
【参考】宗像の漂着PETボトル 製造国組成 2021年
※清野先生作成資料の一部を転載
魚や海岸の生物が生息する場所にごみが入ってくると、本来生き物が生きていけたスペースを失ってしまうことになるため、生息数が減少してしまいます。また、分解しないようなごみを生き物が食べてしまうと、お腹の中から排出されずに腸閉塞を引き起こしたり、栄養を摂取できず生き物が瘦せていき減少したりすることもあります。特に稚魚は、水中に浮いている細かな粒子状のごみを食べたりするため、それが人工物で消化できなくなった結果死んでしまいます。クジラやカメが死んでいるのは大きい生き物だから目に見えますが、目に見えないところで多くの魚が死んでしまっています。
さらに有害物質が水中に溶けだしたり、溶けてでている有害物質が濃縮されたりと、長期的にはさまざまな重金属汚染などにつながるため、生き物が正常に育てなくなってしまいます。私たち人間に与える影響としては、粉状になったナノプラスチックが血中のなかに入り血栓になりやすくなる可能性があると指摘されはじめました。また過去には、有害物質を高濃度で蓄積した魚貝類を人々が食べ続けたことで生体濃縮された結果、水俣病が発病しています。
中高生の皆さんが作っていく世界は、海洋ごみを世界から無くそうという目標の時代と重なります。2040年に海洋ごみをゼロにするという国際目標があります。そうすると今2024年なので、2040年は今中高生の皆さんが社会の中で中核を担っている年代となります。そのみなさんがどういう未来を選んでいくかが、地球の未来を決めてしまいます。例えばこのまま大量消費、大量廃棄が進んでいくと、この先もメーカーは作り続けていくと思います。自分たちはこういう未来を選びたい、こういう行動をしたいと発信することで、みなさんの世代がどういう興味を持つかが注目されています。
自分たちで将来を変えられる世代が中高生のみなさんです。海洋ごみは自分たちの生活の問題が、地球全体のことに関わる分野です。興味を持ってくれたら、ぜひ一緒に解決できたらと思います。
少し逆説的になりますが、世界文化遺産に指定されるような海流や風で古来より人が往来してきた場所は、現在は海ごみが集中しやすいになってしまっているのです。今後、世界遺産の環境保全が出来れば、他の場所も環境改善されることにもなりますので、世界遺産の環境上での新たな意味が出てくるかもしれません。