2009年に無形文化遺産に登録されていた
鹿児島の「甑島(こしきじま)のトシドン」が拡大され、
秋田の「男鹿のナマハゲ」や沖縄の「宮古島のパーントゥ」など10件が
「来訪神 仮面・仮装の神々」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました。
地域ごとに異なる姿をした神が家にやってくるなんて
いかにも地域文化に根ざした土着の信仰っぽいなと思います。
近代的な宗教では普通、人々が神に会いに行くところを、神が会いに来るんですから。
パーントゥなんて異界から来たようにしか思えないですし。
こうした、正月などの年の節目に、
異形の姿をした神「来訪神」が訪れるのは、
世界の他の文化でも見られるものです。
ここでいう「神」とは、全知全能の存在だけでなく、
人智を超えた存在としての「神」です。「カミ」と書かれることもあります。
日本でも古くから雷などの自然現象のほか、巨大な岩や生き物など、
人智の及ばない存在は全て「神」とされました。
天皇も人智の及ばぬ存在として正しく「神」だったのです。
こうした来訪神が多く訪れるのが暦の変わり目です。
一番大きなものが正月です。
正月は時間の流れの最も重要な「切れ目」と考えられていて
新しい年をどのように迎えられるかで、一年の過ごし方が変わってくるので、
人々は様々な神事というか、祭りを行って慎重に新年を迎えました。
一方で、暦の切れ目は異界から「神」がやってくる時でもありました。
古代ゲルマンの信仰では、
正月の前後12日間はヴォータン(北欧ではオーディン)と呼ばれる神が
死者の大群を連れて村から村へと通り抜けるため、
人々はヴォータンに連れ去られないように家にこもって隠れていました。
それがキリスト教に取り込まれると、ヴォータンの大群は悪魔の大群に変わります。
またこの頃から、家の前に十字架を掲げたり、
お香をたくと悪魔から逃れられると考えられるようになりました。
正月前後の12日間はドイツ語で「ラウネヒテ(荒々しい夜)」と呼ばれるのですが、
これは「荒い(ラウ)」と「煙(ラウ)」の両方の語源説があるのはそのためです。
そして、もうすぐ世界で最も有名な「来訪神」がやってきます。
皆さんのお宅にも来るかもしれません。
それは……サンタクロースです。
サンタクロースとされる聖ニコラウスは、
ドイツやオーストリアなどのヨーロッパの国では
12月6日に各家を回って子ども達のところにやって来ます。
その時、聖ニコラウスは悪魔を伴って来ることがあります。
良い子にはプレゼントを与えますが、
悪いことをした子は悪魔に連れ去られてしまうのです。
悪事を戒めに来るあたり「ナマハゲ」とかにそっくりですよね。
クリスマスは、古代ゲルマンの信仰が起源になっていると考えられているので、
ヴォータンの伝説と聖ニコラウスは結び付いているのです。
もうひとり、「来訪神」ではないですが
日本に来るかもしれないのが教皇フランシスコです。
今年世界遺産登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に関係する
大浦天主堂での「信徒発見」の知らせは
当時のヴァティカンでも驚きと賞賛で迎えられました。
今回、教皇フランシスコが来日されるのも、
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の登録と無関係ではないでしょう。
キリスト教(特にカトリック)の信仰というのは、
中世の多様な文化や信仰を、針と糸でつなぎ合わせるような役割がありました。
キリスト教をよく見ていくと、ヴォータンの様に、地域ごとにその痕跡が見られます。
潜伏キリシタン関連遺産にも日本の地方の風土に根ざした文化が見られますし、
多様性に寛大な教皇フランシスコの下で、
「日本らしいキリスト教」の姿というものも発信していけるとよいなと思います。
誇りを持って信仰を受け継いでいけるように。
そのための世界遺産登録でもあるわけですし。
教皇フランシスコの来日は、恐らく「平成」最後になると思います。
元号が変わるという、日本人にとっては大きな「切れ目」に楽しみですね。
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