■ 研究員ブログ154 ■ 世界遺産とデモは関係ある?

ノエルも年の瀬も近づきつつあるのに、
フランスは大変なことになっていますね。
パリを中心としたデモだけでなく
ストラスブールでのテロもあって、
なんだかフランスは治安が悪い国のようなイメージになっています。

テロは問題外なのですが、
デモについては「デモ」と「暴徒」が混ぜこぜになって
批判の目が向けられている気がします。
確かに境界が曖昧な人々もいるのですが、
ブランドショップを襲って商品を奪ったりするのは、
火事場泥棒のようなもので、「デモ」ではありません。

日本にいるとほとんどデモ行進に出くわすことはありませんが
フランスにいる時、よくデモ行進を目にしました。
イラク戦争反対のときはずいぶん大きなデモ行進があったし、
それ以外でも法案に反対するものやら、
学校制度に関する何かなのか高校生達のデモ行進もありました。

大きな通りの脇では屋台みたいなものも出て、飲み物なども売られ、
沢山の人が道路脇に立ってデモ行進を眺めていました。
人々がデモ行進を眺めるだけでも、その行動は成功なのだと思います。

フランス語ではデモのことを「マニフェスタシオン」と言います。
これは「意思などを表す」という意味があり、
最近、選挙などで使われる「マニフェスト」と同じ語源です。
抗議行動というよりも意見表明なので、
注目を集めることが重要なのです。
もちろん抗議の意思を示すということもあります。

このマニフェスタシオンというのは別の見方をすると、
「目に見えないものを見えるようにする」ということでもあります。
その意味では、世界遺産も文化にとってのマニフェスタシオンだといえます。
本来目に見えない文化のソフトの面が、
不動産である世界遺産によって見えるようになっていると。
文化財を傷つけたり破壊することが、
その地域や民族、宗教の文化そのものを破壊することになるのはそのためです。

そして、一度破壊された文化財は、ただ再建すればよいというものでもありません。
2020年までに危機遺産リストを脱する目標を掲げている
アフガニスタンの『バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群』は
再建案も含め様々な修復計画が出ていましたが、
今のところは再建はしない方向で進むようです。
失われた文化財をどのように取り戻すのかは、
現在の人々の意見が重要です。
自分の意見を常に表さないといけないというのは
疲れることもありますが、文化財の保護でも政治でも重要なことだと思います。

フランスのデモの話からずいぶん外れてしまいましたが、
フランスの状況は、選挙だけが国民の意見表明の機会であると
政治家も国民も考えている日本とは大きく異なりますね。
だから日本では、池澤夏樹さんがどこかで書いていたように、
まるで「デモ行進をするなんて良識ある国民ではない」といった
「空気」があるのかもしれません。

今回のフランスは、デモ行進が身近にある国であること、
不満をもつ人々の一部が暴徒化し、
そこに何の主張もない暴徒が加わったことなどによって
簡単には収拾がつかない状態になっている気がします。
2018年中に何とか決着がつくのでしょうか。
ちょっと心配です。