平成最後の4月は、寒いですね。
東京では乱暴な風と雨によって
桜の季節が無理やり終わらせられたような感じがして
ちょっと寂しくもあります。
現在、東京の上野にある国立西洋美術館では、
企画展「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ-ピュリスムの時代」が
開催されています。
世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品」の構成資産になっている
国立西洋美術館本館は、
松方幸次郎が収集した西洋美術「松方コレクション」のフランスからの寄贈返還と
それに伴う新しい美術館の建設が原点となっています。
松方コレクションは第二次世界大戦中に、フランス政府に差し押さえられていましたが、
戦後その一部が返還されることになり、
寄贈返還の条件が「松方コレクション」にふさわしい新たな美術館の建設でした。
そこで日本政府が設計を依頼したのが
当時、世界的に知られていたル・コルビュジエでした。
彼の事務所で前川國男や坂倉準三などの日本人建築家が
共に働いていたことがあった点も考慮されたようです。
最初にル・コルビュジエに依頼の手紙を書いたのは前川國男でした。
今回の企画展では、開館60周年を記念して、
「ル・コルビュジエはどのようにしてル・コルビュジエになったのか」
ということを改めて考え直す内容になっています。
実は「ル・コルビュジエ」というのは本名ではないのです。
本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ。
スイスの世界遺産に登録されているラ・ショー・ド・フォンで生まれました。
この街は時計作りに特化した街づくりが評価されているのですが、
彼の父親はまさに時計職人でした。
彼は美術学校で学んだ後、
ドイツやフランス、オーストリアなどの建築事務所などで働きながら
旅をしていました。
そして最終的にたどり着いたのが、フランスのパリでした。
今回お話を伺うことができた国立西洋美術館の村上博哉副館長によると、
彼が自分の拠点としてパリを選んだのは、
建築も芸術であるという意識が強かったためだそうです。
この意識が生涯、彼の中にしっかりとありました。
ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)がパリに移り住んで、
画家のアメデ・オザンファンと始めたのが、
今回の企画展のテーマのピュリスム運動です。
ピュリスムとは、機械が発達した近代に相応しい芸術を作ろうとするものです。
ジャンヌレとオザンファンたちは、
幾何学的で科学的な原理に基づく機械のような秩序を
芸術の中にも取り入れようとしました。
その中で、当初はジャンヌレも絵画を描いていたのですが、
やがて建築についても雑誌に発表するようになります。
そこで使ったペンネームが「ル・コルビュジエ」です。
これは遠い親戚にあった「ルコルベジエ」家の名前を、
少し変化させて2つに分けて「ル・コルビュジエ」としました。
母方の「ペレ」という姓は、
すでにオーギュスト・ペレという有名な建築家がいたので止めたそうです。
今回の企画展では、ジャンヌレが描いた絵画やデッサンから、同時代の芸術家達の作品、
そしてル・コルビュジエとして発表した建築の模型や写真まで、
彼がどのような環境で何を考えて、どのように変化して行ったのかを見ることが出来ます。
それもル・コルビュジエが自ら設計した美術館の中で。
彼が設計した西洋美術の美術館は、世界でも上野にしかありません。
美術館に行って作品だけを見るのではなく、
それが置かれている美術館までを一連の作品として見ることが出来るこの企画は、
国立西洋美術館でしか出来ないものです。
ピュリスムの絵画を見てから国立西洋美術館を見渡すと、
ピュリスムの絵画の中でモチーフが重なり合っていた姿が、
美術館では空間的に表現されていると感じることが出来ます。
国立西洋美術館は、中心から螺旋を描くような作りになっていて、
それを展示室に立って眺めると、美術館の中で壁や天井、柱などが
重なり合うモチーフとして浮かび上がってきます。
これは本当に面白い体験でした。
国立西洋美術館は、世界遺産としては地味だと思われるかもしれませんが、
ル・コルビュジエが近代という時代の中で何を模索していたのかを
知ることが出来るとても貴重な世界遺産だと感じてもらえるはずです。
ぜひ足を運んでみて下さい。
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国立西洋美術館開館60周年記念
ル・コルビュジエ 絵画から建築へ-ピュリスムの時代
会期:2019年2月19日(火)~2019年5月19日(日)
開館時間:9:30~17:30 毎週金・土曜日:9:30~20:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)
※ 詳しくは展覧会公式HPをご確認下さい。
https://www.lecorbusier2019jp
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