いよいよ平成から令和へ、時代がまたひとつ進みますね。普段は使い勝手のよさから、ほぼ西暦を使っていますが、時代感覚の拠り所として元号も続いていくとよいなと思います。
天皇と関係のある元号が注目を集める今年ですが、令和時代最初に登録されるかもしれない世界遺産が、これまた天皇と関係のある遺産「百舌鳥・古市古墳群」です。なにやら運命的なものを感じますね。「百舌鳥・古市古墳群」は、6月30日から7月10日までアゼルバイジャン共和国のバクーで開催される世界遺産委員会で審議が行われます。登録が決まるとすると7月6日か7日頃でしょうか。
世界遺産委員会の審議に先立ち、諮問機関であるイコモスから勧告が出されます。勧告とは、諮問機関が事前に現地調査などを行って、世界遺産登録に相応しいかどうかの専門的な意見を提出するものです。世界遺産委員会では、この勧告を基にして審議が行われます。
勧告は、世界遺産委員会開催の60日前までに出されるのですが、例年、少し早めの4月末か5月頭頃に出されています。もうすぐなんです。ぜひニュースに注目していてください。
この「百舌鳥・古市古墳群」は、大阪堺市にある「仁徳天皇陵古墳(大仙古墳)」や藤井寺市・羽曳野市にある「誉田御廟山古墳(こんだごびょうやまこふん)」などの45件49基で構成されています。45件と49基で数が異なるのは、仁徳天皇陵古墳のような大きな古墳には陪冢(ばいちょう)と呼ばれる小型の古墳が附属していることがあり、それらを合わせて1件と数えているためです。
関西地方を中心に、日本各地に古墳がありますが、今回「百舌鳥古墳群」と「古市古墳群」の2ヶ所の古墳のみが推薦されたのは、この2つの古墳群に日本最大の古墳があることに加え、「前方後円墳」「帆立貝形墳」「円墳」「方墳」という大小さまざまな4種類の古墳が見られるということがまずあります。このことから、この古墳群を通して日本の古墳時代の個人の権力の大きさや社会的な権力の構成などを証明できると考えられています。
また45件で構成される「百舌鳥・古市古墳群」は、「シリアル・ノミネーション」と呼ばれる登録方法での推薦になります。これは「姫路城」のように、単体で世界遺産としての価値を証明すすのではなく、45件の構成資産をパズルのピースのように当てはめていって、ひとつの価値を証明するものです。ですから、同じピースが複数あってもダメだし、ピースが足りなくてもダメなのです。そのためには、価値を物語るストーリーが重要になってきます。恐らく仁徳天皇陵古墳のような重要な古墳を中心にストーリーが作られ、それに合うように構成資産が選ばれていったのだと思います。
今回のストーリーは、日本の古墳時代に強大な権力構造があったこと、それを東アジアとの海上交易が行われる時代に東アジアの国々に対して示す意味があったこと、そしてそれ以降に巨大古墳が作られなくなり次の時代へと移行していったことなどが軸になっていると考えられます。
「百舌鳥・古市古墳群」が海上交易の窓口であった大阪湾を望む台地の上にあるのはそのためです。大阪湾を行き来する船からは巨大古墳がよく見えたはずです。しかし、東アジアとの交易や文化交流の中で仏教が日本に伝わってきて、天皇の陵墓を守る役割は寺院に移っていきました。
「百舌鳥・古市古墳群」にはいくつか難しい点があります。誰が葬られているのか、立ち入りは出来ないのか、大都市の中にあって保護はできるのか、都市開発は出来るのか、観光客からは全然見えないじゃないか、などです。特に気になるのは被葬者は誰か、ということかもしれません。
そもそも「仁徳天皇陵古墳」という名称、違和感がないでしょうか。「陵(みささぎ)」というのは天皇や皇后、皇太后などを葬る所、「墓」はその他の皇族を葬る所です。つまり誰が葬られているのか決められています。一方で「古墳」は文字通り古い墳墓のことで、誰が葬られているのかは決められていません。聖なる空間なのが陵墓、文化財なのが古墳とも言えます。
そうしてみると、今回の推薦書の中で構成資産名となった「仁徳天皇陵古墳」は、「陵」と「古墳」がひとつになった、ちょっと変わった名称です。これは「仁徳天皇陵」であることを譲らなかった宮内庁と、被葬者が特定できていないとする考古学者などとの間の折衷案でした。「仁徳天皇陵として親しまれてきた古墳」ということのようです。ちょっとすっきりしない感じはあるのは確かです。
それでも、「百舌鳥・古市古墳群」が世界遺産になるのは楽しみです。エジプトのピラミッドに匹敵するような巨大墳墓なんて夢があるじゃないですか。関西で唯一世界遺産をもたなかった大阪にとうとう世界遺産が誕生するかもしれません。まずはイコモスの勧告を楽しみに待ちたいですね。
(2019.04.26)
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