■ 研究員ブログ175 ■ 第44回世界遺産委員会は危機遺産リストにも注目!


第44回世界遺産委員会まであともう少しですね。今年は、2020年に開催が延期された世界遺産委員会の内容まで含むため、日本からも久しぶりに2件の世界遺産が誕生する見込みです。

先日の研究員ブログでも書いたように、今回の世界遺産委員会は初めてオンラインで開催されます。各国の時差にも配慮して、審議時間は例年よりも短く、期間は例年よりも長くなっています。7月16日(金)から31日(土)まで開催され、新登録遺産の審議は7月24日(土)の午後から28日(水)の午前までで行われる予定です。

今回、新規登録に向けて審議される遺産の数はわかりませんが、推薦書が提出された遺産への勧告は次のようになっています。

また、登録範囲の拡大では、1件が情報照会、2件が「承認」となっています。

登録勧告の遺産が全て登録されれば、世界遺産の総数は1,141件まで増えます。

一方、危機遺産入りの勧告が出された遺産は7件あります。この7件は危機遺産リスト入りの勧告が出ていますが、全てがそのまま危機遺産リストに記載されるわけではありません。報道などでもあるように「グレート・バリア・リーフ」を有するオーストラリア政府は強く反対していますので、保有国が強く反発している遺産などはリスト入りせず、次の世界遺産委員会で継続して審議を行うことになる可能性もあります。危機遺産リストに記載されることが国家にとってネガティヴなイメージ、もしくは「恥」になるとして保有国が反発し、リスト入りしないということが、果たしてよいのか疑問ではありますが。

「グレート・バリア・リーフ」の危機遺産リストへの記載勧告については、今回の世界遺産委員会の議長国である中国の意向が反映されて、最近の国同士の関係が良好とは言えないオーストラリアに対する嫌がらせではないかという一部報道もあります。

しかし「グレート・バリア・リーフ」については、2015年の世界遺産委員会以前からずっと危機遺産リストへの記載が話し合われてきています。2019年の世界遺産委員会ではオーストラリア政府から保全計画(Reef 2050 Plan)などが出されたため危機遺産リスト入りはしませんでしたが、2015年の世界遺産委員会の時に5年後の状況報告を見ることになっていたので、2020年報告を受けて、危機遺産リスト入りした方がよいという世界遺産センターとIUCNの判断になっています。昨年の世界遺産委員会が延期になったので今年その審議がなされるのです。今回の議長国が中国だからというのは、僕はあまり関係ないのではないかと思います。

環礁の保護に巨額を投じるオーストラリア政府の努力を無視しているということも言われていますが、危機の一番大きな理由である気候変動は、すべての加盟国と国際社会が取り組まなければならないと勧告にも書かれているので、オーストラリア政府の不作為を責めているものではありません。もちろん一帯の水質悪化には、マリーンスポーツの影響や、港湾開発、液化天然ガス開発、カーマイケル炭鉱の影響なども指摘されており、その辺りはオーストラリア政府が対応すべきことではありますが。

今年の世界遺産委員会では、ほかにも有名な遺産の危機遺産リスト入りが勧告されています。

①「ヴェネツィアとその潟」
観光開発や4万トンを超えるクルーズ船やオイルタンカーの寄港、バッファー・ゾーンでの高層ホテル建設計画、気候変動や水害を防ぐMoSEシステムによる干潟への影響など
②「ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り」
規制を超える高さの建物を含む都市開発、ブダ城地区を第二次世界大戦前の状態に戻す改修工事の真正性と完全性の問題など
③「カムチャツカ火山群」
ダムや水力発電、ガスのパイプライン開発、観光開発や管理体制の不備など
④「カトマンズの谷」
地震からの復興における建物の構造や素材が及ぼす真正性の問題、管理体制の不備、個人の住宅を中心とする都市開発の管理不備、林道やトンネルの建設の影響など
⑤「W-アルリ- ペンジャーリ国立公園群」
武装テロ組織の拡大による管理スタッフの避難や、それによる密猟や移牧、金の掬い取りなどの違法行為の増加など
⑥「オフリド地方の自然及び文化遺産」
鉄道や道路建設を含む開発や、湖近くのバッファー・ゾーンでの高層ビル建設計画、管理体制の不備など

こうしてみると、近年では観光を含む開発の問題と気候変動が大きいですね。この中のいくつが危機遺産リストに記載されるのでしょうか。新規登録も注目ですが、保護・保全の観点からいえば、危機遺産リストに関する審議もぜひ注目していただきたいと思います。同じ時期に日本で大きなイベントが開催されるみたいなので、埋もれがちなニュースをぜひ見つけ出してくださいね!

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(2021.06.25)