連日、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが続く中、今年6月19日からロシアのカザンで予定されていた、第45回世界遺産委員会の延期が発表されました。
ユネスコの世界遺産センターのHPには、第45回世界遺産委員会のビューロー会議(*1)での話し合いによって、世界遺産委員会が延期されることになったとしか書かれていません。
フランスのメディア「ル・フィガロ」の4月21日の記事によると、ユネスコのオードレ・アズレ事務局長が調停役として入ったビューロー会議で話し合いが行われ、世界遺産委員会の60日前の招集期限ぎりぎりで議長国のロシアが開催の延期を受け入れ、その旨を各国に連絡したとのことです。
ロシアは開催地の変更を受け入れる意思はなく、一方で圧力をかける欧米諸国はロシアが議長国を務めるのであれば会議をボイコットすることを表明しており、予想通り難しい話し合いとなりました。記事によれば、国際的なスポーツイベントと同じく、ユネスコの世界遺産活動という平和を促進する分野でもロシアを締め出す欧米の方針に従うことをためらう国もあり、欧米諸国にとっても手詰まりの状態でした。世界遺産委員会自体を中止することは求めていないからです。そのため、世界遺産委員会の開催地にも開催期間にも触れずに「延期」とだけ決めたのは、双方にとって現時点では唯一の受け入れられる決定でした。
この決定は妥当なものだと思います。先日、ロシア軍の攻撃によって損傷したウクライナの文化財リストをユネスコが発表しました。幸い、現時点では世界遺産に登録されている文化財は含まれていないのですが、このような文化財の破壊を行っている国で文化財の保護について話し合うというのには多くの欺瞞が含まれています。一方で、対話もせずに全ての分野でロシアを締め出すのが、果たして最善なのか僕にはわかりません。ウクライナの文化財の惨状や、文化財保護の意義の再確認、戦後に向けた保護方針など、ロシアを含めて話し合わないと意味がない気がします。
確かに、今回難しいのは、開催地がロシアで、ロシアが議長国だということです。開催地が別の都市だったら、別の形の話し合いになったと思います。欧米諸国もロシアの会議参加に反対しているわけではないので、世界遺産委員会からロシアを締め出すという意見が出たら多くの国が反対したのではないでしょうか。G20での各国の対応を見ていると、そうとも言い切れない感じもしますが。
世界遺産委員会は1年に1回以上開催すると決められているので、2022年中にはどうするのか決めないといけません。新型コロナウイルス感染症のために1年延期された2020年の世界遺産委員会のようにするのか、その場合は開催地はどうするのか。今回は議論を先送りしただけなので、今後の話し合いが難しいことは変わりありません。
今年の世界遺産委員会で新規登録が審議される日本の遺産はないのでよかったのですが、来年には「佐渡島の金山」の審議が控えているので、どうなるのか心配ですね。
こういう時こそ、平和理念を掲げるユネスコが影響力を発揮できるとよいのですが、ユネスコ自体の権限が弱く難しいです。今後は、世界遺産委員会とユネスコ事務局長の関係と権限の再構築が求められるでしょう。ロシアの侵攻によって、僕たちにも関係する世界の様々なことが変わりそうです。
(2022.04.22)
(*1)アルゼンチン、インド、イタリア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、タイ
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