■ 研究員ブログ186 ■ エリザベス女王が一番たくさん世界遺産をもっている!?

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英国でエリザベス女王の在位70年をお祝いする「プラチナム・ジュビリー」が行われました。おめでとうございます! 生誕70年ではなく、即位70年というのがすごいですね。即位されたのが1952年2月6日とのことなので、第二次世界大戦後の激動の70年を女王として過ごされてきたことになります。この70年は、国に王がいることが当たり前で、王権神授説なんて言っていればよかった時代ではないので、新しい国王の姿を常に模索してこられたのだと思います。

エリザベス女王は英国の女王ですが、現在、エリザベス女王を国家元首としている国は、カナダやオーストラリアなど世界に15ヵ国(*1)あります。ここからもかつての大英帝国の繁栄を伺い知ることができます。以前はもっと多くの地域が含まれていましたが、独立したり共和制へと移行したりして、少しずつ減りつつあります。最近でもバルバドスが2021年11月30日に立憲君主制を廃止し、ジャマイカでも共和制への移行が進められています。また英国の旧植民地からは、植民地時代の奴隷貿易や富の略奪、搾取に対する非難も根強く、立憲君主制の下での王室というのは、僕の想像なんて遥かに超えて大変なのだと思います。国家の顔として常に矢面に立たされるわけですから。

世界遺産で見ると、エリザベス女王と関わるエピソードをもつ世界遺産はいくつもあります。結婚式と戴冠式を行ったのは、英国のロンドンにある『ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター・アビーとセント・マーガレット教会』のウェストミンスター・アビーですし、ウェストミンスター宮殿の時計塔「ビッグ・ベン」は、エリザベス女王の在位60年を記念して2012年に「クロック・タワー」から「エリザベス・タワー」へと名称が変更されました。「ビッグ・ベン」というのはその愛称です。

他にも『エディンバラの旧市街と新市街』のエディンバラ城にある「スクーンの石」は、歴代のスコットランド王がその上で戴冠式を行った石ですが、イングランドに奪われウェストミンスター・アビーに置かれていました。1996年にエディンバラ城に返還されますが、その石の上で最後に戴冠したのがエリザベス女王です。またエディンバラの旧市街にある「ホリールードハウス宮殿」は、エリザベス女王の夏の滞在用宮殿でもあります。そして日本では、1975年に一度だけ来日した際に『古都京都の文化財』の龍安寺を訪れて、瞑想するように静かに石庭を眺められたことが知られています。

世界遺産の数でみると、エリザベス女王を国家元首とする15ヵ国の世界遺産の合計は83件になって、世界で最も多くの世界遺産をもつイタリアの58件を大きく上回ります。この83件という数字にはほとんど何の意味もないですが、それでもかつての大英帝国の富の大きさを感じさせるには充分です。

もう10年近く前になりますが、皇居の脇を歩いていた時に、黒光りする大きな車が坂を下ってくるのが見えました。その車はスピードを緩めず交差点に入ると、両側の窓から黒いスーツを着た人が上半身を乗り出すようにして交差点の人や車、近くに建つビルの上層階まで鋭い目線で見まわしたのです。その異様な光景に「これは目を合わせたらいけない人たちに違いない」と目を逸らそうとしたら、すぐ後ろを走る車の開いた窓から、当時の天皇皇后両陛下(現在の上皇上皇后両陛下)が、優しく微笑みながら手を振ってくださったのです。それまで天皇陛下をほとんど意識することなく生きてきた僕にも、あれは忘れられない、心奪われる記憶になりました。

天皇制や君主制が必要なのか様々な意見があろうかと思いますが、今回のプラチナム・ジュビリーのニュースからはエリザベス女王が多くの国民に尊敬されていることが伝わってきました。ロシアのウクライナ侵攻などの影響から、日本でも文化や自然の保護、それに教育や芸術活動よりも、もっと実利的なところにお金も労力も割くべきという意見が大きくなってきているように感じます。それと君主制を同じには語れませんが、それでも実利的な視点だけでは考えられない存在は確かにあるんだと、僕は再認識したこの週末でした。無駄なものなんて、そんなにはないんです、きっと。

(2022.06.06)

(*1)英国、カナダ、オーストラリア連邦、ニュージーランド、アンティグア・バーブーダ、バハマ、グレナダ、ジャマイカ、パプアニューギニア独立国、ソロモン諸島、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、ベリーズ、セントクリストファー・ネーヴィス、ツバル

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