お盆が過ぎて、日差しは暑いままですが、朝晩にはどこか秋を感じさせるような季節になってきましたね。今年は久しぶりに地方の会場に呼んで頂いて講演会をすることも増え、先日は暑い暑い京都を訪問することができました。やはり京都はよいですね。
そうして講演会準備などに追われている間に、世界遺産関連で大きなニュースがありました。2023年の登録を目指していた「佐渡島の金山」の推薦書再提出です。報道によると、今年提出した「佐渡島の金山」の推薦書が諮問機関(今回の場合はICOMOS)に送られておらず、登録へのプロセスがストップしていたというのです。
7月28日の報道では、砂金の採取に必要な「導水路」を、文科省が「現在途切れている部分も含めて構成資産の一部だ」と説明したのに対し、ユネスコ側は「地理的に途切れている部分の記載が不十分だ」として、諮問機関への送付を止めていたとあります。地理的に途切れている部分は、土砂崩れの影響によるものだとの報道もありますが、それ以上の詳しい内容も分からず、推薦書も見られないため、何だかよくわかりません。すみません。
「世界遺産条約履行のための作業指針」を見ると「I.F 世界遺産委員会事務局(世界遺産センター)」の28.cで、世界遺産センターの役割に「世界遺産リストへの推薦書の受理」と「書類の完全性の確認」とあるので、「佐渡島の金山」の推薦書は、完全性に問題があると判断されたのだと思います。
しかし、「土砂崩れによる影響で途切れた資産の記載が不十分」程度の内容であれば、世界遺産センターではなく、諮問機関のICOMOSの専門家が判断することのような気がします。これまで日本の遺産で、登録に至らなかった遺産も含めて、世界遺産センターから諮問機関に推薦書が送られなかった遺産はないので、その辺りがすっきりしません。
世界遺産センターから指摘のあった、西三川砂金山の導水路は、「大流し」と呼ばれる方法で砂金を採掘する際に大量の水が必要なため、鉱山周辺に多く作られたものです。この「導水路」は「江道(えみち)」と呼ばれます。江道は長い歴史の中で、いくつも作られた他、古いものを繋ぎ合わせたり、近くに新しく作ったりと、古江道と新江道が複雑に存在しています。最も長い「金山江」は、全て合わせると12kmほどにもなるそうです。
「佐渡島の金山」の法的な保護・管理は、文化財保護法の国史跡と国重要文化的景観で行っています。この重要文化的景観というのは、2005年の文化財保護法の改正で新たに生まれた文化財保護の考え方です。西三川砂金山は、2011年に「佐渡西三川の砂金山由来の農山村景観」として登録されました。これが世界遺産へ推薦する法的根拠となっています。
しかし、西三川砂金山の価値として重要な「江道」のほとんどは、この重要文化的景観に含まれていませんでした。「金山江」と「虎丸山導水路」の大部分は国史跡に指定されていますが、主要な「金山江」「虎丸山導水路」「杉平山導水路」「筑後江」「鵜峠山導水路」の5本の江道周辺の景観は、現状では法的に保護されていないのです。推薦書原案内では追加指定エリアとして破線で囲まれていますが、今まさに重要文化的景観に追加指定すべく動き出したところです。この辺りの完全性が問題視されたのではないかなと僕は推測します。違っていたらすみません。
西三川砂金山の価値で「大流し」という独自の手法に触れているのに、それに必要な江道の法的保護が遅れている、それも推薦書提出から半年たってまだ追加指定の初期段階にあるというのは、少し疑問です。主要な金山江と虎丸山導水路の大部分が国史跡に指定されているから十分だとの判断だったのだとは思いますが。
もう1つ気になるのは、日本は今回、アップストリーム・プロセスを活用しなかったのかな? という点です。作業指針の中でも、推薦の早い段階で世界遺産センターや諮問機関にアップストリーム・アドバイスを求めることが望ましい、と書かれています。今回、それをしていたらこのようなことにならなかった気がします。また、アップストリーム・アドバイスを受けていたのであれば、アップストリーム・プロセスの制度自体に問題があります。いずれにせよ、今回の世界遺産センターの判断は、前例から見てもちょっと厳しいかなと思いますが。
しかし、こうなってしまった以上、来年の1月末までに対処するしかありません。新潟県や新潟市だけでなく国を挙げてフォローしてもらいたいと思います。後に続く「彦根城」や「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」にも大きな影響を与える話なのですから。でもまぁ、2022年の世界遺産委員会の開催すら不透明な状況ですから、慌てても仕方ありませんね。
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■ 研究員ブログ180 ■ 「佐渡島の金山」の推薦について考えたこと(前半)
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(2022.08.19)
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