『佐渡銀山往時之稼行絵巻』
もうそろそろ勧告が出される頃だと待っていたら、昨夜「佐渡島の金山」へのICOMOSからの勧告が出されましたね。諮問機関からの勧告は、世界遺産委員会の6週間前までに出されるので、いつもよりもぎりぎりに出された感じがします。
ICOMOSの勧告は、4段階の勧告(*1)の中でも上から2番目の「情報照会」勧告でした。「情報照会」は、世界遺産としての「顕著な普遍的価値(OUV)」は認められるものの、遺産の保護や管理計画、法令の整備などの点で追加の情報や対応を求めるものです。そうした点がクリアになれば、翌年の世界遺産委員会で審議を受けることができます。
これは世界遺産登録にはかなり近い勧告だと言えます。現在知り得る情報を見てみると、登録までのハードルはあまり高くないのではないかと思います。
勧告の大きなポイントとしては3つあります。
①相川鶴子金銀山に含まれる相川上町の北沢地区を世界遺産エリア(プロパティ)から外し、緩衝地帯(バッファーゾーン)とすること
②相川鶴子金銀山の緩衝地帯を沖合に拡張すること
③世界遺産範囲内での商業採掘を今後行わないことを示すこと
推薦書では、登録基準を(iii)と(iv)としていましたが、文化的伝統や時代の証拠が残されているという価値の(iii)は物証が不十分であるため認められず、建築や科学技術の証拠の価値(iv)のみが認められました。また真正性や完全性についても、上記①の北沢地区がプロパティから除外されれば満たされるとなっています。
相川上町の北沢地区には、日本で初めて金銀の採取に浮遊選鉱法を用いた近代産業遺産の「北沢浮遊選鉱場」があります。今回の「佐渡島の金山」は江戸末期までの鉱山遺跡の価値で推薦を行っているため、近代産業遺産は遺産価値に含むべきではないとの評価だったのだと思います。
一方で、かなり甘めに見てもらえたなという印象も受けます。「佐渡島の金山」は江戸時代までの生産技術や鉱山集落が残されているという点が価値ですが、西三川砂金山にも相川鶴子金銀山にも多くの明治以降の構造物が含まれていますし、場所によってはほとんど近代以降のものという場所もあります。また坑道の修復にコンクリートが使われているところもあり、大丈夫なのかなと思っていました。集落も江戸時代の鉱山集落の「雰囲気を伝える」となっており、そのまま残すことができない日本らしい木造集落の難しさがあります。文化財保護法で保護される史跡「佐渡金銀山遺跡」には近代以降の構造物も保護対象に含まれており、いくつかの時代がマーブル状に入り組む鉱山遺跡の中から、テクニカルに江戸時代のものだけを抜き出す手法は危うさもありました。
今回、鉱業採掘が行われていた全ての時代を含む歴史全体を扱う説明や展示戦略を策定するように求められたのは、こうした課題への対応という意味もあったのだと思います。鉱山の歴史には当然、光の部分も影の部分もあります。それも示すべきだと僕は思います。これは「佐渡島の金山」に限った話ではありません。
他にも森林管理のガイドラインの策定や、相川鶴子金銀山の緩衝地帯全体を重要文化的景観に指定すること、遺産影響評価(HIA)を景観計画に組み込むことなど、指摘されて対応しなければならないことは多いですが、どれもできない内容ではないと思うので、世界遺産登録も近いと僕は考えています。
日本政府としては、今回の勧告を受けつつも今年7月21日にインドのニューデリーで開催される世界遺産委員会での登録を目指していくようですが、そこでの登録も可能性は高いと思っています。「情報照会」勧告の遺産を「登録」決議にすることへの賛否は別にして。
新しい世界遺産が誕生する第46回世界遺産委員会まであと少しですね。今年も楽しみにしています。
(*1)
・登録:OUVが認められ世界遺産登録を勧める勧告
・情報照会:OUVは認められるものの追加の情報や対応を求める勧告
(翌年以降の世界遺産委員会で審議を受けられる)
・登録延期:OUVは認められるものの本質的な推薦書の練り直しを求める勧告
(最短で翌々年の世界遺産委員会で審議を受けられる)
・不登録:世界遺産としてのOUVは認められないとする勧告
(2024.06.07)
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