7月から全国で買い物袋の有料化がはじまりました。無料のときはなんとくプラスチック製の買い物をもらっていたけど、有料なら数円でも「もったいない」とエコバッグに切り替えた人も多いのではないでしょうか? 自分もそんなひとりです。最近ようやく、買い物のときはエコバッグを忘れずに家を出るくせがつきました。
さて、この買い物袋有料化政策ですがなぜはじまったのでしょうか? この政策を進める経済産業省のホームページを見てみますと、「プラスチックは、非常に便利な素材です。成形しやすく、軽くて丈夫で密閉性も高いため、製品の軽量化や食品ロスの削減など、あらゆる分野で私たちの生活に貢献しています。一方で、廃棄物・資源制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの課題もあります」とあります。
プラスチックの過剰な利用が生み出す問題、そのひとつが廃棄されたプラスチックが海に流出する「海洋プラスチックごみ問題」です。この問題をはっきりと示す世界遺産があります。南太平洋に浮かぶ英国領のピトケアン諸島に属する『ヘンダーソン島』です。
『ヘンダーソン島』は独自の生態系が残る、面積37㎢に及ぶ環状サンゴ礁の無人島です。自然美や景観美を示す価値基準の(ⅶ)と生物の多様性を示す価値基準の(ⅹ)が認められています。大航海時代の1606年スペイン人航海士デ・キロスがヨーロッパ人として初めて上陸しましたが、18世紀以降は無人島となったため、手つかずの原始に近い状態の自然が保たれました。陸鳥4種はすべて固有種で、被子植物も51種中10種が固有種です。 しかし、この貴重な自然を残すヘンダーソン島に今異変が起きています。何千キロという海をわたって大量のブラスチックごみが島に流れ着いているのです。オーストラリアの海洋生物学者のジェニファー・レイバースさんらによる研究によると、ヘンダーソン島に漂着したプラスチックごみの数は3770万個におよび、世界で最もプラスチックごみが高密度に集積されている地域だといいます。ごみの中には日本から排出されたと見られるものもあります。
海洋プラスチックの何が問題なのでしょうか? そのひとつが生態系への影響です。プラスチックごみに絡まってしまったり、誤って食べてしまったりして、ウミガメなどの絶滅危惧種などの貴重な生物が傷ついたり、命を落としたりしています。また、プラスチックごみを食べた生物を人間が食べることによって、人体への流入のリスクも指摘されています。さらに、海洋プラスチックによって漁獲量が減ったり、漁獲用の網にプラスチックごみが絡まることなどによって、海洋生物がかからず、網が破損してしまうなどの間接的な被害も確認されています。
海洋プラスチックごみが問題となっている世界遺産は『ヘンダーソン島』だけではありません。アメリカの『パパハナウモクアケア』や南アフリカの『イシマンガリソ湿地公園』などでも海洋プラスチックごみは問題となっており、現地では清掃活動が行われています。 プラスチックごみは年間800万トン海へ流出していると推定されており、2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量が魚の量を上回るとも予想されています。 世界遺産のみならず、地球上の貴重な自然や生物を守るためにも、プラスチックの買い物袋をやめるという小さなことから変えていきたいですね。
(世界遺産検定事務局 大澤暁)
ヘンダーソン島
登録基準:(vii) (x)
登録年:1988年登録
登録区分:自然遺産
次回の更新は2020年8月下旬を予定しています。