今回のテーマは「国立公園」です。「えっ」と思われるかもしれませんが、国立公園と世界遺産は切っても切りはなせない関係にあります。世界遺産検定のテキストをめくってみても、『ハワイ火山国立公園』『ロス・グラシアレス国立公園』『イグアス国立公園』『セレンゲティ国立公園』など多く出てきます。1872年に世界で初めて国立公園に制定されたアメリカ合衆国の『イエローストーン国立公園』は、そのちょうど100年後に採択された世界遺産条約によって、世界で初めの世界遺産の1つになりました。
そんな世界遺産との関りの深い国立公園の展覧会がおこなわれていると聞いて、取材に行ってきました。東京・上野の国立科学博物館で開催中の企画展「国立公園 ―その自然には、物語がある―」(開期:2020年8月25日(火)~11月29日(日))です。
入り口を入ってみるとそこにあったのは巨大なヒグマのはく製。ヒグマというとどんな日本の世界遺産が思い浮かびますか……。ヒグマの生息密度が世界で一番高いやはり『知床』でしょう。『知床』は世界遺産リストへの登録名は『知床』のみですが、1964年に「知床国立公園」として国立公園に指定されています。
『小笠原諸島』も1972年に「小笠原国立公園」に指定されています。会場には小笠原諸島に生息する固有種のはく製や標本が展示されていました。なかでも目を引いたのが色鮮やかな花の標本です。これは樹脂封入という方法でつくられた標本で、「国立公園の貴重な草花を生き生きとした姿で展示したい!」というスタッフの想いから採用されたとのことです。
日本初の世界遺産の1つ『屋久島』も国立公園です。展示で目を引いたのが、巨大な土壌の断面です。屋久島から北へ40kmの地点にある海底火山「鬼界カルデラ」の7,300年前の爆発によって地層に残された痕跡を紹介しています。その爆発による火砕流で屋久島の生物は壊滅したと考えられていますが、現在見られるような固有種がどう生まれたかは謎だということです。
さて、日本の4つの自然遺産のうち『知床』、『小笠原諸島』、『屋久島』の3つが国立公園に指定されています。冒頭に書いたように世界を見渡しても国立公園の世界遺産は多くあります。なぜなのでしょうか?「世界自然遺産は、その価値を将来にわたって維持していくために、適切に保護管理されていることが必要です」と今回の展覧会を主催する環境省の担当者は言います。「このため、我が国の世界自然遺産地域は、国が責任をもって管理できる国立公園、自然環境保全地域、森林生態系保護地域、天然記念物など、国の法律や制度等に基づく保全措置が講じられています。我が国の世界自然遺産4地域のうち『知床』、『小笠原諸島』、『屋久島』の3地域が国立公園にも指定されているのはこのような理由によるものです」。
国立公園に指定されると自然公園法に基づき、区域内における建築物などの工作物の新改増築や木竹の伐採、土石の採取や動植物の捕獲・採取などの行為が規制されます。また、傷ついた自然を回復させるための取組や増えすぎた鳥獣の管理、外来生物の対策などもおこなわれます。世界遺産に登録されるための条件として、「保有する国の法律などで保護されていること」が定められているので、国立公園に指定されている世界遺産は多いんですね。ちなみに、2016年、2017年に国立公園に新たなに指定された「やんばる」「奄美群島」は日本政府がいま世界遺産に推薦している「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」に含まれます。国立公園という側面から世界遺産を見てみると、また新たな発見があるかもしれません。
(世界遺産検定事務局 大澤暁)
屋久島
登録基準:(ⅶ)(ⅸ)
登録年:1993年登録
登録区分:自然遺産
知床
登録基準:(ⅸ)(ⅹ)
登録年:2005年登録
登録区分:自然遺産
小笠原諸島
登録基準:(ⅸ)
登録年:2009年登録
登録区分:自然遺産
次回の更新は2020年11月下旬を予定しています。