今日から2021年3月の世界遺産検定の申込みがはじまります。ポスターをすでにご覧になった方もいらっしゃるかもしれません(下写真参照)。今回のメインビジュアルに使われている世界遺産は、エチオピアの『ラリベラの岩の聖堂群』です。今年度のメインビジュアルは留学生に母国のおすすめ世界遺産を聞くということでやっていますので、こちらも留学生に紹介してもらいました。
今回取材に協力してくれたのは、エチオピアから東京工業大学に留学してビルの設計や都市計画などを学ぶテインビタ ダニエル アレマエフさんです。「エチオピアには『アクスムの考古遺跡』や『ファジル・ゲビ、ゴンダールの遺跡群』など数多くの世界遺産があります。私はそれらのほとんどを訪ねてきましたが、一番おすすめしたいのが『ラリベラの岩の聖堂群』です。見るものすべてに魅了されるはずです」と彼女は言います。
ダニエルさんが熱をこめておすすめする『ラリベラの岩の聖堂群』とは、どんな世界遺産なのでしょうか? 基礎知識を確認しておきましょう。まずこれは1978年に登録された世界で最初の12の世界遺産のひとつで、巨大な一枚岩をくりぬいて築かれた11の聖堂からなります。ポスター写真に使われているのは11番目につくられた最も新しいギョルギス聖堂です。これは上空から見ると、建物自体がギリシャ十字型につくられていることがわかります。
この聖堂群が築かれた12世紀末ごろ、キリスト教の聖地エルサレムはイスラム勢力に占拠されており、信徒は聖地巡礼ができませんでした。そこで、ラリベラという王様は岩窟教会をつくり、都を「第二のエルサレム」にしようとしました。そのためこの地には、ヨルダン川やベツレヘム(キリストが生まれたとされる場所)など、聖書にちなんだ地名がつけられています。
ダニエルさんは彼女の専門である建築の観点からも『ラリベラの岩の聖堂群』はとても興味深い驚くべきものだといいます。「まず、現在使われているような建設機械がまったくない時代にあれだけのものを築いたことはとてつもない偉業です。岩を削り出して11もの聖堂を築くには信じられないほどの労力が必要だったはずです。“天使が建設を手伝った”とも言われるのもうなずけます」。
さらに、設計の面からもこの世界遺産は非常に優れているといいます。「窓のサイズは必要な分だけの自然光を建物内に取り入れるように、注意深く制限するように設計されています。また、ここで取り入れられている排水システムも驚くほど優れたものです」。
彼女が現地を訪問したとき強く印象に残ったのは、聖堂群が今なお信仰の場として人々に利用されているということでした。「建物ができてから長い時をへているにも関わらず、また多くの観光客が年間訪れるにも関わらず、聖堂が信仰の場としての意味を失っていないということに私は驚きました。ここで積み重ねられてきた祈りや生活が聖堂を守り神聖なものにしていることを、きっとこの場所を訪れた誰もが感じることでしょう」。
テインビタ ダニエル アレマエフさんはエチオピアだけでなく、さまざまな国の世界遺産を訪れるのが好きだそうです。「日本でも白川郷や原爆ドーム、国立西洋美術館を訪ねました。世界遺産の旅は、時の流れのなかを旅しているようでとても楽しいです。その場で築かれてきた生活様式を感じとることができますし、システムや創造性が年月のなかでどのように変化していったかを知ることできます。また多くの世界遺産はサステナブルなものであるということも興味深いです」。
将来は建築の設計と研究の両方をやっていきたいというダニエルさん。世界遺産からも多くのことを学んでいるようです。
(世界遺産検定事務局 大澤暁)
ラリベラの岩の聖堂群
登録基準:(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)
登録年:1978年登録
登録区分:文化遺産
次回の更新は2021年2月下旬を予定しています。