2021年 3月『メンフィスのピラミッド地帯』『カイロの歴史地区』

エジプト人留学生の“オススメ”世界遺産は?


 今日から受付がはじまった第44回世界遺産検定のポスターやリーフレットには、ギザの3大ピラミッドをバックに、足を踏み出したポーズを取る男性の姿が写っています。おなじみとなりました留学生に母国のいちおし世界遺産を紹介してもらう「留学生のオススメ世界遺産」です。シリーズ4回目の今回はエジプト人留学生のイブラヒム・モハミドアリさんです。

第44回世界遺産検定ポスター

 イブラヒムさんは東京藝術大学の博士課程に在学中で、文化遺産の保護について学んでいます。「私はエジプトの歴史と文化遺産にとても誇りをもっています。文化遺産とは歴史の物語を伝えてくれるものです。文化遺産を保護することは、歴史の物語を次世代に伝えていくことです。日本で学んだ知見を活かしてエジプトの文化遺産を守りたいです」(イブラヒム・モハミドアリさん)

東京藝術大学に留学中のイブラヒム・モハミドアリさん

 そんなイブラヒムさんが、エジプトの世界遺産のなかでも「オススメ」に選んだのは『メンフィスのピラミッド地帯』と『カイロの歴史地区』でした。どんな理由があるのでしょうか?
「メンフィス付近は古代エジプトで長いあいだ首都だった場所です。カイロもまたイスラム勢力が入ってきて以来、エジプトで長年首都であり続けているところです。この2つの世界遺産を通じて、皆さんにエジプトの歴史をもっとよく知ってもらえると思い、私はオススメに選びました」(イブラヒム・モハミドアリさん)

エジプトが誇る2大歴史都市「メンフィス」と「カイロ」

スフィンクスも構成資産に含まれる『メンフィスのピラミッド地帯』

 まず『メンフィスのピラミッド地帯』から紹介しましょう。これは皆さんもよくご存じですね。エジプトの首都カイロからほど近いメンフィス周辺に点在する約30のピラミッド群です。なかでも「ギザの三大ピラミッド」と呼ばれる、紀元前2500年ごろ(日本では縄文時代)に築かれたクフ王、カフラー王、メンカウラー王の巨大なピラミッドは有名です。最大のクフ王のピラミッドには平均2.5tの巨石が約230万個使われており、建造時に高さは約150mあったとされます。
 イブラヒムさんはピラミッドの大きさの“背景にあるもの”に注目してほしいと言います。「私が興味深いと思うのは、その巨大な建物だけでなく背景にあるものごとです。あれだけのものを築くためには工学や地質学など知識が必要です。また、巨大なピラミッドを築くためには多くの労働者も必要だったはずです。さらに、そこには膨大な労働者を動かす優れた統治機構もあったはずです。そうした点もふまえて考えると、やはりピラミッドは人類史初期の偉業と言えます」(イブラヒム・モハミドアリさん)

ミナレットが立ち並ぶカイロの街並

 カイロは7世紀にイスラム勢力がアフリカ大陸進出の拠点として築いた軍事基地から発展した街です。世界で最も古いイスラム都市のひとつで、ムハンマドの没後10年に満たない641年には、この街に最初のモスクが建築されています。アフリカ大陸におけるイスラム勢力の拡大とともにカイロも発展を遂げ、13~16世紀のマムルーク朝時代には世界最大のイスラム都市となりました。街のいたるところにミナレットが建造され、黄金期を迎えた14世紀は「1,000のミナレットが立つ街」と言われました。

イブラヒムさんが好きだという『カイロの歴史地区』の通り©Omar Attallah  https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

 イブラヒムさんは5歳のころからカイロに住みはじめ、人生の大半をこの街で過ごしてきました。イブラヒムさんはさまざまな時代の建造物が残っている点が特に気に入っていると言います。「歴史地区には中世のとても古い建物が残っています。また、カイロのダウンタウンの近くには19世紀から20世紀の街並みもあります。さらに時代の最先端をゆく現代的な建物もあります」
 そのなかでもイブラヒムさんの一番のお気に入りの場所は「歴史地区」のなかにあります。「カイロの歴史地区の中心を貫くメインストリートがあります。ここがカイロで私が一番好きな場所です。ここにはまだ伝統的な工房があります。伝統的な手工芸品も作られています。そうしたものを見ながら、どれだけ長い間これらのことは続けられてきたのだろう、と思いを馳せることはとても楽しいです」(イブラヒム・モハミドアリさん)

イブラヒムさんが撮影したカイロのモスク

 イブラヒムさんは将来、文化遺産を保全はもちろんですが、文化遺産を地域コミュニティつなげていく仕事もしていきたいと言います。「文化遺産の近くに暮らす人たちが、その文化遺産とどのように関わるかということに興味があります。とくに若い人たちがいかに文化遺産に関わり、歴史とつながっていくかということが重要だと思います」
 文化遺産と地域住民の関係性は、世界遺産の登録でも評価されるポイントの一つです。「保全」という観点からは、文化遺産と日常的に接する地域住民の関わりが不可欠だからです。そういう意味では、地域住民と文化遺産の良い関係性を築いていくことも、文化遺産の保全活動の一つと言えるかもしれません。イブラヒムさんが将来エジプトでどんなふうに文化遺産と地域住民を結び付けていくのか、注目していきたいですね。

(世界遺産検定事務局 大澤暁)

メンフィスのピラミッド地帯
登録基準:(ⅰ)(ⅲ)(ⅵ)
登録年:1979年
登録区分:文化遺産

カイロの歴史地区
登録基準:(ⅰ)(ⅴ)(ⅵ)
登録年:1979年登録
登録区分:文化遺産

次回の更新は2021年5月下旬を予定しています。

例題

Q1.「ギザの3大ピラミッド」が築かれた紀元前2500年ごろは日本の歴史では何時代にあたるでしょうか? (4級レベル)
  1. 縄文時代
  2. 平安時代
  3. 室町時代
  4. 江戸時代
Q2.『メンフィスのピラミッド地帯』で最大のピラミッドを築いた王は誰でしょうか? (3級レベル)
  1. ツタンカーメン王
  2. カフラー王
  3. メンカウラー王
  4. クフ王
Q3. 13~16世紀にカイロを支配し、世界最大のイスラム都市とした王朝は何でしょうか(2級レベル) (2級レベル)
  1. 後ウマイヤ朝
  2. マムルーク朝
  3. サファヴィー朝
  4. アユタヤ朝