今回取り上げるのは、本日から受付が開始しました47回検定のメインビジュアルにもなっている、ブラジル連邦共和国の『ブラジリア』です。皆さんはこの都市のことを知っていますか? じつはここ、街も村もない荒涼とした未開の地に、ゼロからつくりだした世界でも珍しい首都なのです。今回はブラジリアの魅力を、日本から家族で移住し、世界遺産エリアで日本食レストランを営む杉浦敦子さんに伺います。
まずはブラジリアの場所を確認しておきましょう。ブラジリアはブラジル中部の標高約1,100mの高原地帯に位置しています。ブラジルを代表する大都市のリオ・デ・ジャネイロとサン・パウロはどちらも大西洋沿岸部にあります。19世紀にポルトガルから独立したブラジルの課題は、人口や産業が沿岸部に集中をしていたことでした。それを是正しようと、1960年に内陸部の高原地帯に人工的に都市を築き、そこを首都にしたのです。
ブラジリアは空から見ると飛行機の形をしていることで知られています。機種にあたる部分には政府機関が並び、翼の部分に居住区が広がっています。
居住区は等間隔に配置されていて、その中に商店街や公園、教会といった生活に欠かせない施設が配置されています。そのエリアの中で生活が完結するように機能的に設計されているのです。さらにこちらも効率を考えて、銀行は銀行が集まるエリアに、ホテルはホテルが集まるエリアに、といったように、同じ業種が同一地区に集まるように初めから計画されています。
「パイロット・プラン」と呼ばれるこの都市計画を考えたのが、フランス出身の建築家ルシオ・コスタです。彼は師である近代建築の巨匠ル・コルビュジエが提唱した合理的な都市計画に従って、ブラジリアの「パイロット・プラン」をまとめました。
しかし、この都市ができた当初は「世紀の大失敗」「人間不在の都市」などの批判にさらされました。それから50年がたち、街に住む人々は住み心地をどのように感じているのでしょうか?
2014年からブラジリアで暮らす杉浦敦子さんは、この都市は住みやすいと言います。「人工的に植えられた街路樹や、計画的に区画された街は、はじめて訪れた時は無機質で冷たいと感じました。ただ、住んでみると安全で住みやすいです。多くの警官が街を警備してくれていますし、居住区の道はどこも迷路のようにグネグネと入り組んだ設計になっています。泥棒に入られても逃げづらい街のつくりになっているんですね(笑)」
都市をつくる段階で、目的別にエリアを分けただけでなく、防犯対策も考えていたというのが面白いですね。
一方で、ブラジリアは街の全体がエリアで世界遺産に登録されているため、制限も多く課されています。「ブラジリアには景観を守るために建物の高さの制限があります。政府機関が集まるエリアに高さ100mの国旗掲揚塔が立っているのですが、このエリアの建物はこの塔と同等かそれより低く造られています。居住区も『このエリアは4階建て』『このエリアは7階建て』というように制限があるようです。あとは洗濯物を外に干してはいけないという決まりもあります(笑)。ブラジリアの気候は雨期でも日本のようにジメジメしてなくて、基本的にカラッとしているので、家の中でも洗濯物は乾きますが」(杉浦敦子さん)
こうした世界遺産エリアならではの規制はあるものの、杉浦さん一家はブラジリアの生活を楽しんでいるそうです。
ブラジリアの代名詞ともいえる斬新なデザインの近現代建築群も杉浦さんは堪能しています。一番のお気に入りは“青の教会”ともいわれる「ドン・ボスコ聖堂」です。「壁一面がステンドグラスになっていて、それがとても綺麗です。ステングラスは全部が青じゃないんですよ、ピンクとか紫とかもあって全部がグラデーションとなって青に見えます。太陽の光が入ってくるのも全部設計の中に入っていて、時間ごとの光の変化によって、ステンドグラスがさまざまな色に変化して見えます」(杉浦敦子さん)
ドン・ボスコ聖堂のステンドグラスの重さは全部で12トンに及ぶといわれています。圧倒的な迫力ですね。建物はオスカー・ニーマイヤーの弟子のカルロス・アウベルト・ネイビスが設計しています。
杉浦さんはまた、ブラジリアのさまざまな建物の装飾を担当したアトス・ブルカォンの作品が好きだといいます。アトス・ブルカォンはリオ・デ・ジャネイロの出身の画家・彫刻家で、ブラジリア建設の際にオスカー・ニーマイヤーが設計した数多くの建物の装飾を手掛けました。とくにタイル作品がよく知られており、ブラジルの「国会議事堂」や「ファティマの聖母教会」などの壁面のタイルが有名です。「アトス・ブルカォンのデザインはとにかくおしゃれで、絵葉書やマグカップにもなっています。空港やテレビ塔などブラジリアのさまざまな場所で彼のデザインを見ることができます。」(杉浦敦子さん)
杉浦さんがブラジリアで経営する日本食レストラン「Umami-Deli」は口コミで客を増やし、コロナ禍にも負けず盛況ということです。ブラジリアを観光で訪れる外国人客がやってくることもあると言います。ぜひ世界遺産都市で、トンカツや唐揚げ、ひじき、きんぴらごぼうなど、大衆的な日本食を広めていってほしいですね。
(世界遺産検定事務局 大澤暁)
ブラジリア
登録基準:(i) (iv)
登録年:1987
登録区分:文化遺産
次回の更新は2022年3月上旬を予定しています。