第54回世界遺産検定の申込みが始まりました。今回の検定のメインビジュアルはイタリアの世界遺産『アルベロベッロのトゥルッリ』(1996年登録、文化遺産)です。この遺産のことはよく知っている人も多いと思います。白い漆喰の壁と、円錐形の石屋根をもつ、特徴的な住宅(トゥルッリ)が立ち並ぶ世界遺産です。アルベロベッロの旧市街には今でも1,000軒以上のトゥルッリがあり、現役の住居やホテルとして使われています。
アルベロベッロのあるイタリア南部のプーリア州では石灰岩の土壌が広がっていて、古くから石灰岩を用いた独自の建築が発達してきました。トゥルッリは16~17世紀に、開拓農民用の住居としてつくられました。壁は石灰岩の切り石を積み重ね、漆喰で白く塗り固められています。円錐状の屋根に部屋は一つだけで、この一部屋分をトゥルッロ(複数形がトゥルッリ)といいます。その部屋が集まって一軒の家になっています。
アルベロベッロを含む南イタリアのプーリア州で先日(2023年7月)、イタリアを代表する世界的なラグジュアリーファッションブランドのドルチェ&ガッバーナが新作コレクションの発表会を行いました。アルベロベッロの街も、もちろん会場の一つとして使用されました。最新のファッションに身を包んだモデルの人たちが、おとぎ話に出てくるようなとんがり屋根の家々の間を歩き抜ける様子はとても美しく、興味深いイベントとして成功していたと思います。何百年も前につくられた街並みを、現代においてこういう形で活用することもできるという良い事例です。
日本でも世界遺産をファッションイベントに活用しようという動きが進んでいます。『富岡製糸場と絹産業遺産群』に含まれる富岡製糸場では、今年の10月中旬に国内初の世界遺産での本格的なファッションショーが開催される予定です。これは観光庁の「観光再始動事業」の一つとして行うもので、国宝に指定されている西置繭所(にしおきまゆじょ)の多目的ホールなどを使うことを検討しています。
ご存じのように、富岡製糸場は明治政府が1872年に設立した官営の器械製糸場です。フランスの技術者ポール・ブリュナによって伝えられた器械製糸技術が、富岡の地で日本の伝統技術との融合し、独自の改良も加えられていきました。その結果、富岡製糸場の製糸技術は1873年のウィーン万国博覧会で入選するなど国際的な評価を受けるに至り、フランスやイタリアなどのシルク先進国で富岡の生糸が使われるようになりました。そうした歴史もあるので、ファッションショーを行うのにぴったりな場所だと思います。
世界遺産条約では「世界遺産に社会生活の中で機能・役割を与えるべき」という記述があります。ただ守るだけでなく、現代の生活の中でどう生かしていくのか、ということが非常に重要です。世界遺産の生かし方の一つとして、こうしたイベントなどでの活用というのは今後も増えていきそうです。
(文:世界遺産検定事務局 大澤暁)
アルベロベッロのトゥルッリ
登録基準:(iii)(iv)(v)
登録年:1996
登録区分:文化遺産
次回の更新は2023年12月を予定しています。