9月の「第57回世界遺産検定」のメインビジュアルはエジプトの世界遺産『メンフィスのピラミッド地帯』です。この遺産は何と言ってもギザの3大ピラミッドが有名ですね。そしてピラミッドを守るように近くに築かれた、ライオンの身体と人間の顔を持ったスフィンクスの像もよく知られています。スフィンクスの像は、全長73.5m、全高20m、全幅19m。一枚岩からの彫り出された像としては世界最大のものだと言われています(※場所によっては別の場所から運ばれてきた石灰岩が用いられており、完全な一枚岩の像ではありません)。今回のメインビジュアルは、ピラミッドを背景に悠然とたたずむスフィンクスの写真を使っています。
この3大ピラミッドやスフィンクスからわずか数キロ離れたギザ郊外に、「大エジプト博物館」という世界最大級の博物館が築かれたのはご存じでしょうか? もともとエジプトには首都カイロに1903年に開館した国立のエジプト考古学博物館がありました。この博物館が展示・収蔵スペースの不足といった課題を抱えていたため、新たに「大エジプト博物館」を築くことになりました。2024年中に全面開業する予定で、現在そのための準備が進められています。
大エジプト博物館の概要を見ていきましょう。敷地面積は48万平方メートルで東京ドーム10個分ほどの大きさです。展示面積は約5万平方メートルで、12の展示ホールと10万点を超える所蔵品があります。1つの文明を扱う博物館としては建物の総面積も展示面積も世界最大級だといいます。すべて見てまわるのに数日かかりそうな規模ですね。
大エジプト博物館は現在(2024年7月時点)はまだグランドオープンしていませんが、プレオープンという形で公式サイトから申し込みツアーで中には入ることができます。ピラミッド型の入口をくぐるとロビーには巨大なラメセス2世の像が出迎えてくれます。この博物館の最大の見どころは、1922年に王家の谷(『古代都市テーベと墓地遺跡』として世界遺産に登録)で発見された5,000点を超えるツタンカーメンの遺物です。有名な黄金マスクや3つの棺が一堂に会して展示される予定です。また、『メンフィスのピラミッド地帯』にあるクフ王のピラミッドの南側から見つかった2隻の「太陽の船」も展示される予定になっています。
このエジプトを代表する至宝が集まる「大エジプト博物館」ですが、その設立に大きな力を貸しているのが日本です。総工費費約1,400億円のうち6割にあたる約842億円が日本の円借款(政府開発援助(ODA)の一環で、通常の民間金融機関の融資より低い金利で長期の資金を開発途上国に貸し付ける制度)でまかなわれています。また、国際協力として大エジプト博物館の収蔵品の保存の技術支援も行っており、72点のツタンカーメン王の財宝をエジプト人と一緒に日本人技術者が保存修復しました。さらに保存修復を担う人財の育成も2000年代から20年ほど行われています。
こうしたエジプトと日本の強い協力関係の中で造られた大エジプト博物館。「目玉」であるツタンカーメンの遺物の展示室には、アラビア語と英語に加えて日本語の解説もあるそうです。ぜひグランドオープンしたら現地を訪れてみたいですね。
(文:世界遺産検定事務局 大澤暁)
メンフィスのピラミッド地帯
登録基準:(i)(iii)(vi)
登録年:1979年登録
登録区分:文化遺産
次回の更新は2024年9月を予定しています。