『 日本の技術力がヴェネツィアを救う!? 』<イタリア>
人気観光地ヴェネツィアの光と影
サン・マルコ大聖堂
サン・マルコ大聖堂の金地のモザイク画
こちらのコーナーでは公式テキストには盛りきれない世界遺産にかんするこぼれ話やユニークなエピソードを紹介していきます。今回取り上げるのは36回検定のメインビジュアルにもなっている『ヴェネツィアとその潟』です。皆さんはヴェネツィアというと何を思い出しますか。サン・マルコ大聖堂の金地のモザイク画でしょうか?ドゥッカーレ宮殿の巨大な油絵?あるいはヴェネツィア映画祭がおこなわれるリド島を思い出すかもしれません。
数年前には(2014年)ハリウッド俳優ジョージ・クルーニーさんの結婚式が話題となりました。チャーター船に乗ってあらわれ、カナル・グランデ沿いに立つリゾート・ホテルに入っていく様子は、まるで映画のワンシーンのようでした。式場となったのは「アマン・カナルグランデ・ヴェニス」。この建物は16世紀に建てられた宮殿を19世紀にネオ・ルネサンス様式、ロココ様式に改築したとても美しい歴史的建築です。運河沿いに並んだこうしたパラッツォ(ルネサンス期に建てられた宮殿や邸宅)もヴェネツィアらしい景色だといえます。
ヴェネツィアは街が海に沈みはじめている
世界一美しい都市のひとつに数えられる人気観光地ヴェネツィアですが、現在大きな危機にも直面しています。地下水や天然ガスの採取の影響で街が海に沈みはじめているのです。このために近年はひどい高潮に悩まされています。昨年10月には10名以上の人が亡くなる水害に見舞われました。もともとヴェネツィアは潟(ラグーナ:砂州によって外海から隔離された湖)の上に立てられた都市ですので、高潮には常に悩まされてきました。そこに地盤沈下や地球温暖化による海水面の上昇もあり拍車がかかっています。「水の都」と称されるこの街の最大の弱点も「水」なのです。
潟の上に築かれた「水の都」ヴェネツィアの弱点も「水」
日本の技術力がヴェネツィアを救う!?
モーゼ・プロジェクトによってつくられた堤防
イタリア政府も手をこまねいているわけではありません。ヴェネツィアを水害から守る計画を立ち上げました。7,000億円をかけた大型の国家プロジェクト「モーゼ・プロジェクト」です。モーゼとは「Modulo Sperimentale Elettromeccanico(電気実験モジュール)」の頭文字をとったもの。外海とヴェネツィアの街が立つ潟のあいだに78枚の可動式の堤防をつくり水の侵入を防ごうという計画です。街の景観を保つために堤防はふだん海の中に沈んでいますが、海水の水位が一定以上をこえると立ち上がり水を防ぐ仕組みで、なんとこれは100年ものあいだ使われ続けるといいます。
水中での補修作業
2013年からはじまったこの巨大プロジェクトに、じつは日本の技術力が大きく貢献しています。可動式の堤防の問題点が海中の生物(貝や海藻など)が堤防に付着すると、うまく開閉できなくなることでした。この問題をクリアするのに使われたのが、日本企業の中国塗料が開発した「バイオクリン」という塗料です。バイオクリンを塗ると堤防の表面に海洋生物が付着するのを防ぐことができます。さらにこの塗料は海の中の生物にも害を与えないという優れものです。10年以上かけて厳密な試験がなされ、この塗料がモーゼ・プロジェクトに採用されました。
堤防の基幹部分の補修には、おなじく日本メーカーの中国塗料が開発した「パーマスター」が使われています。これは水中でも塗ることができる画期的な塗料です。海の外へ取り出すことのできない堤防の基幹部分を、100年もの間どのように補修維持していくのかも課題でしたが、パーマスターを使うことで海中でも補修作業が行えるようになりました。
モーゼ・プロジェクトは2020年頃の完成を目指して現在作業が進められています。日本の技術力を活かしてつくられた堤防が、世界遺産『ヴェネツィアとその潟』を守っていくことが期待されます。
(世界遺産検定事務局 大澤暁)
『ヴェネツィアとその潟』に関する 検定の問題はコチラ
ヴェネツィアとその潟(イタリア共和国) 登録基準:(i) (ii) (iii) (iv) (v) (vi) 登録年:1987年登録 登録区分:文化遺産