2019年9月『バウハウス 関連遺産群:ヴァイマールとデッサウ、ベルナウ』

2019年9月 今月の世界遺産『アバハウス』

世界遺産と
「バウハウス」


 先週末の9月8日、ドイツで巨大なミュージアムがオープンしました。セレモニーにはアンジェラ・メルケル首相をはじめ各界を代表するゲストが駆けつけ、ミュージアムの開館を盛大に祝いました。このミュージアムの名は「バウハウス・ミュージアム・デッサウ」。1919年に開校した総合造形学校「バウハウス」の設立100周年を記念して建てられたものです。歴史に名高いアート・スクールの「バウハウス」を皆さんは知っていますか?
9月8日にオープンした「バウハウス・ミュージアム・デッサウ」(同ミュージアムHP「コンセプト」より)
 バウハウスは建築家ヴァルター・グロピウスによって設立された学校です。建築の下にすべての造形活動を統合することを理念に掲げ、パウル・クレーやヴァシリー・カンディンスキーといった当時の先端的な芸術家たちを教授陣に招いて画期的な造形教育のシステムを打ち立てました。そこから多くの革新的な造形や思想が生まれ、20世紀の建築やデザインに革命的な影響を与えたといわれます。
バウハウスを創立した当時のグロピウス
 バウハウスに関わる建物は世界遺産に多く登録されています。まずは『バウハウス関連資産群:ヴァイマールとデッサウ、ベルナウ』です。これは1919年にドイツの古都ヴァイマールで開校し、その後デッサウ、ベルリンと拠点を移しながら、1933年にナチス・ドイツの弾圧により閉校に追い込まれるまでのバウハウスの歴史を伝える校舎などの建造物をまとめて登録したシリアル・ノミネーション・サイトです。
バウハウス・ヴァイマール校舎 (設計: アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ 1904-1911年) photo Eiji Ina バウハウス・デッサウ校舎 (設計: ヴァルター・グロピウス 1925-1926年) photo Eiji Ina
 グロピウスが設計した『アールフェルトのファーグス靴型工場』も世界遺産に登録されています。巨大なガラスパネルが特徴的な、“建築としての美”と“工場としての機能美”を兼ね備えたモダニズム建築の先駆けです。また、グロピウスは『ベルリンのモダニズム公共住宅』にも中心的な建築家の一人として関わっています。
アールフェルトのファーグス靴型工場 (設計:ヴァルター・グルピウス 1911-1925年)
 さらに、イスラエルの世界遺産『テル・アービブの近代都市 ホワイト・シティ』の一部もバウハウス出身の建築家が設計しています。この他にもチェコにある世界遺産『ブルノのトゥーゲントハート邸』は、バウハウスの3代目校長、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエによって設計されました。こうしてみると世界遺産のなかでバウハウスに関わる建築はかなりの数にのぼることがわかります。
ブルノのトゥーゲントハート邸 (設計:ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ 1928-1930年)

バウハウスに学ぶ
“革新性”


 今年は日本でもバウハウス設立100年を記念した催しが多くおこなわれています。巡回展「開校100年 きたれ、バウハウス —造形教育の基礎—」もそのひとつです。この展覧会のキャッチ・コピーは「バウハウスに体験入学」。バウハウスではどのようなカリキュラムが組まれ、どんな授業がおこなわれていたのかということを具体的に紹介するユニークな内容です。「バウハウスから生まれた“もの”だけを見てても、バウハウスはわかりません。バウハウスの本質は“学校”です。そこから見ていくとバウハウスの本当の姿が見えてきます」と展覧会を監修したキュレーターの深川雅文さんはいいます。
巡回展「きたれ、バウハウス」展示会場風景 (新潟市美術館 2019年8月3日〜9月23日) photo Masafumi Fukagawa
 展覧会では、各教授陣の講義ノートや教えた学生の作品から、バウハウスでおこなわれていた授業を“再現”する試みもおこなわれています。バウハウスの教育内容についてただ見るだけでなく、体験的に理解できる興味深い取り組みです。 もちろんバウハウスで生まれた画期的な“もの”についても見ることができます。金属(スチール・パイプ)を椅子の素材に使い、家具デザインに革命をもたらしたといわれるマルセル・ブロイヤーの「ヴァシリーチェア」なども含め、家具や陶器、織物など約350点が展示されています。また、バウハウスに学んだ4人の日本人学生も紹介されています。
バウハウス・デッサウ校舎内に置かれた「ヴァシリーチェア」 (デザイン: マルセル・ブロイヤー 1925年) photo Eiji Ina
 さて、100年前にドイツで開校したバウハウスという“学校”から、現代に生きる私たちは何を学ぶことができるでしょうか? 深川さんは、専門分野にかたよらず幅広い視野をもつことだといいます。「ひとつのことを掘り下げて学ぶことも重要ですが、その周辺のことに目を向けることも大事。多面的な関心をもって世のなかを見ていくことで、専門的な学びだけでは生まれない新しいアイデアが出てくる。そういうところもバウハウスから学べるところです」。 バウハウスの教育は、学生たちそれぞれの個性を引き出すとともに、新たな世界に向かって視野を広げ、既製の価値観に挑戦する実験的な精神を育みました。バウハウスから多くの革新的なデザインが生まれた理由の一つはそこにあったのではないでしょうか。 現代はバウハウスがあった20世紀前半よりもいっそう専門性の分化が進んだ時代です。教育も専門分野にかたよったものになってしまいがちです。今、バウハウスから学ぶことは多いかもしれません。

(世界遺産検定事務局 大澤暁)

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バウハウス 関連遺産群:ヴァイマールとデッサウ、ベルナウ(ドイツ連邦共和国) 登録基準:(ii) (iv) (vi) 登録年:1996年登録/2017年範囲拡大 登録区分:文化遺産

巡回展「開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―」
・新潟市美術館
 2019年8月3日(土)~9月23日(月)  http://www.ncam.jp/
・西宮市大谷記念美術館
 2019年10月12日(土)~12月1日(日)  http://otanimuseum.jp/
・高松市美術館
 2020年2月8日(土)~3月22日(日)
・静岡県立美術館
 2020年4月11日(土)~5月31日(日)
・東京ステーションギャラリー
 2020年7月17日(金)~9月6日(日)
※詳細はリンク先をご参照下さい ⇒ bauhaus 100 japan 公式webサイト http://www.bauhaus.ac/bauhaus100/
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例題

Q1. 『バウハウスの関連遺産群:ヴァイマール、デッサウ、ベルナウ』はどこの国の世界遺産か。
    1. (3級レベル)
  1. イタリア共和国
  2. フランス共和国
  3. ドイツ連邦共和国
  4. アメリカ合衆国
Q2. バウハウスの初代校長を務めた建築家として、正しいものはどれか。
    1. (2級レベル)
  1. ル・コルビュジエ
  2. フランク・ロイド・ライト
  3. ミース・ファン・デル・ローエ
  4. ヴァルター・グロピウス
Q3. バウハウスに関係する建築家が設計に携わっていない世界遺産は次のうちどれか。
    1. (1級レベル)
  1. チロエの教会堂群
  2. ベルリンのモダニズム公共建築
  3. テル・アビーブの近代都市 ホワイト・シティ
  4. アールフェルトのファーグス靴型工場
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