解説
『トリポリのラシード・カラーミー国際見本市会場』は、1962年から67年にかけて、ブラジル人建築家のオスカー・ニーマイヤーが設計した国際見本市の会場施設です。メインの建物はブーメランのような独特な形で、長さ約700m、幅70mの巨大なホールとなっています。
トリポリはレバノン第二の都市です。地中海に面する港湾都市で、古くはフェニキア人が拠点としていました。1943年に独立したレバノンは、首都ベイルートを中心に目覚ましい成長を遂げる一方、地方の都市はインフラ整備に後れをとっていました。レバノンの発展を示すとともに、国内の不均衡を是正するべく、国際見本市をトリポリで開催することにしました。
ラシード・カラーミーはトリポリ出身の首相で、彼の提案により国際見本市の常設会場を設立することが決まりました。設計を担当したのは、世界的に著名なブラジル人建築家のオスカー・ニーマイヤーです。ブラジルにはレバノン系住民が多く、つながりがあったためにニーマイヤーに声がかかりました。
ニーマイヤーは世界遺産『ブラジリア』の設計・施工に携わったことで知られており、トリポリ国際見本市の依頼を受けた際は、すでにブラジリアの設計に着手していました。ブラジル風に熱帯植物が植えられた庭やドーム型の劇場、屋外のコンサート会場など、当時の中東で最も大きなモダニズム施設であり、20世紀のモダニズム建築の代表的な作品です。
しかし、1975年にレバノンで内戦が始まったため、会場は未完成のまま放棄されました。現在は一部の施設がイベントなどで使用されていますが、コンクリートの老朽化が進行し崩壊の危機にあることなどから、23年1月に緊急的登録推薦で世界遺産に登録されました。