解説
『旧約聖書』には、イスラエルのソロモン王を訪ねた「シバの女王」に関する記述があります。一説によると、シバの女王は、アラビア半島南部に栄えた古代サバ王国の女王とされています。
イスラム教の聖典『コーラン』では、女王の名をビルキスといい、ジンに育てられた女性としています。ジンは、アラブ地域にイスラム化以前から伝わる俗信で、精霊や悪霊、魔人といった超自然的な存在です。アラブ文学などでは、ジンに育てられたビルキスは、毛深い脚とロバの蹄をもつといった表現がみられます。
古代サバ王国は、紀元前8世紀~紀元3世紀ごろの南アラビアに存在した王国です。高度な技術によってダムなどの灌漑施設を築き、厳しい砂漠地帯のオアシス都市として栄えました。都のマリブは、乳香を扱う隊商交易のルートにも組み込まれ、王国だけでなく南アラビアの文化や経済の中心地でした。王国の繁栄ぶりは『旧約聖書』や『コーラン』などの聖典や、中世アラビアの文献などに引用され、各地に様々な伝承が残されています。
イエメン内戦により破壊の危険性が高まっていることから、2023年1月に開催されたユネスコの特別会合にて『マリブ:古代サバ王国の代表的遺跡群』として登録されました。世界遺産には、ビルキスの玉座として知られるバラン神殿や、月の神を祀るアワム神殿、古代ダムなどの遺跡群が含まれています。