解説
インドネシアには国教はありませんが、1962年に制定された建国五原則(パンチャシラ)では、イスラム教的な視点から、唯一神への信仰が定められています。そのため、バリ・ヒンドゥーの数多の神々はすべて唯一神サン・ヒャン・ウィディの化身であると解釈されるようになりました。
しかし、一神教的な様相を強めた今も、日常生活ではヒンドゥー教のヴィシュヌ(ウィスヌ)やシヴァ、土着の神々などは根強く人気があります。
なお、サン・ヒャン・ウィディは目に見えない存在だとされていますが、バリ・ヒンドゥーでは偶像崇拝を禁じていないため、イスラム教とは異なり唯一神サン・ヒャン・ウィディの姿が描かれます。
バリではその歴史において、土着の信仰やヒンドゥー教、インド仏教などが融合し、「トリ・ヒタ・カラナ」といわれる独自の哲学や宇宙観が生まれました。「トリ・ヒタ・カラナ」は神と人、自然の調和を重視した概念で、人々の生活や労働に影響を及ぼしてきました。
また、9世紀以来バリで続いてきた伝統的な水利システム「スバック」は、寺院に集められた水を人々が平等に分け合うもので、スバックの運営は水の神への祭祀・儀礼と結びついています。このような独自の哲学やスバックを背景に、バリでは棚田が形成され、豊かな米の収穫が生まれました。
世界遺産には水の神を祀る寺院や、スバックによって維持されてきた棚田の景観などが登録されています。