解説
『ウンム・アル・ジマール』は、5~8世紀まで存在した農村集落の遺跡です。直訳すると、「ラクダの母」という意味になります。
一帯はヒジャーズ地方(アラビア半島の紅海沿岸)からシリアのダマスカスへと至る交易路上にあり、かつてはナバテア王国の一部で、2世紀にはローマ帝国のアラビア属州に組み込まれました。3世紀に町は破壊されましたが、その跡地に集落が形成されました。
ウンム・アル・ジマールは、シリア南部からヨルダン北部にかけて広がる、ハウラーンと呼ばれる玄武岩台地に位置しています。建造物には地元の玄武岩が用いられているため、全体的に黒っぽい点が特徴です。現在見られる建造物の大半は5~8世紀に築かれたビザンツとイスラーム初期時代のものですが、ローマ時代に建造された門や一部の城壁も残り、最も古いものでは1世紀にまで歴史を遡ることができます。
また、ギリシャ語やナバテア語、ラテン語、アラビア語、古代北アラビア語など、何世紀にもわたって複数の言語で記された碑文が豊富に発見されています。
ウンム・アル・ジマールでは、帝国の影響や社会・経済的、宗教的変化にもかかわらず、ハウラーン地方に典型的な建築様式や文化的伝統が非常に良好な状態で保存されてきました。