――トラベル・コンシェルジュとはどのようなお仕事ですか? また世界遺産の知識がお仕事にどのように活かされていますか?
トラベル・コンシェルジュとは、多様化するお客様の様々なご要望に柔軟に対応し、旅のスタイルやご予算に合わせてオーダーメイドの旅行プランを企画してwebで提供する仕事です。現在ウェブトラベルには247名のトラベル・コンシェルジュが在籍しており、それぞれが得意地域を担当しています。私は主にヨーロッパを担当しており、得意な国はフランス、スペイン、ドイツ、スウェーデン、エジプトなどです。
トラベル・コンシェルジュになったのは、今までの仕事や勉強の経験が活かせると思ったからです。客室乗務員を約12年間務め、パリで3年間ホテル・レストランビジネスを学び、帰国後はフランスのホテルチェーンの営業部で働いてきました。世界遺産検定は帰国後、'09年にマイスター、'10年にスペシャリストの資格を取りました。受検勉強の際は、自分が訪れた場所の多くが世界遺産であることを改めて知り、「あ、ここも、あそこも」と確認作業をしているようで楽しかったですね。
お客様の希望は様々ですが、中には「できるだけ多くの世界遺産を周りたい」とおっしゃる方もいます。ヨーロッパ各地を旅し、多くの史跡や世界遺産を訪れたこと、受検のために勉強したことは旅を企画する上でとても役立っています。
――おすすめの世界遺産を巡る旅行プランを教えて下さい。
ワインが大好きで20代でソムリエの資格を取り、今も月1回ソムリエ仲間と勉強会を開いています。今年の2月には『ポルトガル♪ワイナリーも巡る女子旅 8日間』を企画し、ソムリエ仲間の女性たちと一緒に旅してきました。この旅ではポルトガルの7つの世界遺産を訪れまし
た。リスボン周辺では3つの修道院と「べレンの塔」。郊外の「シントラの文化的景観」を訪れた後は、ヨーロッパ大陸の最西端ロカ岬まで足を伸ばし、風に吹かれてきました。
最も印象的だったのは、ポルトからバスツアーで訪れた「アルト・ドウロのワイン生産地域」
です。ふつうブドウ畑は平地や緩やかな斜面に作られていることが多いのですが、アルト・ドウロの畑は渓谷にあります。ブドウ畑が急峻な山の斜面に、まるでフィリピンの棚田のように広がっているのがとても素晴らしい風景でした。この街のワイナリーでワイン作りの工程を見学し、テイスティングを楽しんできました。ここで作られたワインは下流のポルトの街に集められ、世界に名だたるポートワインとして市場に出荷されています。 ポルトはドウロ河にかけて街の南部が「ポルトの歴史地区」という世界遺産に指定されています。ワインの銘柄が描かれた帆掛け舟や旗は、その前にワインの醸造所があるという目印。城壁の中にもワイン屋さんがたくさんあって、とても楽しい街でした。
もちろん世界遺産以外にも魅力はたくさんあります。リスボンもポルトも坂が多くてトラムが走っています。細かい路地がたくさんあって、そこを歩けばタイルで彩られた綺麗な家があるのも同じ。どちらも街全体がテーマパークのように可愛いらしい。またワインはもちろん、どこへ行っても海があってシーフードが美味しいです。人々も素朴で優しくて、話しているとほっこりした気持ちになってきます。街歩き、食べ歩き、触れ合い……、ポルトガルは「女子旅」にぴったりだと思いました。
――これらの世界遺産と横のつながりのある世界遺産や、比較してみるとおもしろい世界遺産はありますか?
「アルト・ドウロのワイン生産地域」を訪れたとき、ふとフランスの世界遺産「ボルドー、月の港」を思い出しました。ボルドーワインで有名な河口の町で、その上流に世界遺産「サン・テミリオン地域」というワインの産地があります。この関係が河の雰囲気も含めて、ポルトとアルト・ドウロの関係に良く似ているのです。
大航海時代、河の上流にワインの産地があり、そのワインは河を下って河口の街に運ばれました。その街はワインの積出港として栄え、後に世界遺産となる素晴らしい建築物を多く生み出しました。また河に沿って点在した中継地点の街もワインのおかげで潤い、立派な彫刻のある大きな教会を建てることができたわけです。ポルトガルの旅は、ワインを巡ってそんなヨーロッパの町の発展の歴史、ひいては世界遺産の成り立ちを感じさせてくれ、ひときわ楽しいものになりました。