――世界遺産の知識は添乗員の仕事でどのように役立っていますか?
私は先日までクラブツーリズムで企画した、イタリアの『イタリア12の世界遺産めぐり9日』に添乗していました。イタリアには世界最多となる44の世界遺産があり、訪ねる世界遺産以外にも、バスや飛行機の窓から多くの世界遺産を眺めることができます。たとえば今回は成田からミラノに入ったのですが、機内から世界遺産「ドロミテ山塊」の絶景を見下ろすことができました。これは成田~ミラノ便の飛行ルートの違いから、JALではなくアリタリア航空の便に限った特典です。
また、中世の美しい街並みで知られる「シエナの歴史地区」や、その近郊にあってルネサンスの画家たちに多大な影響を与えた「オルチア渓谷」という世界遺産を訪ねたのですが、前後の移動中には「ビエンツァの歴史地区」と「ルネサンス都市フェッラーラとポー川のデルタ地帯」というふたつの世界遺産を通過しました。ほんの1時間ほどのバス・ドライブで4つもの世界遺産に近接する国は、“観光密度世界一”とか“旅行コスト・パフォーマンス世界一”と言われるイタリア以外にはまずないでしょう。
今回は世界遺産が好きなお客様が多かったので、こうして世界遺産を窓から眺めていただいたり、通過する世界遺産をご紹介したり、世界遺産に関するクイズをお出しすることで、とても喜んでいただくことができました。
このように、知識があることで旅行はずっと楽しくなりますし、知らなければ見落としてしまうすばらしい見所をご案内・ご紹介することで、より満足度の高いツアーにすることができます。最近のお客様は世界遺産に対する関心がとても高くてお詳しいですが、世界遺産検定で学ぶ内容は観光情報をはるかに越えて、世界遺産の価値を登録基準や登録範囲などを通して正しく深く身につけることができます。
私は世界遺産を学ぶことでお客様により付加価値の高いサービスが提供できるようになったと思いますし、自信を持ってガイドすることができるようになりました。
――世界遺産旅行をより楽しむコツを教えてください
世界遺産を訪ねる際は、世界遺産検定の公式テキストのコピーを持っていくことをオススメします。普通のガイドブックでは表面的な観光情報しか得られませんが、公式テキストを見れば登録範囲の隅々まで見落とすことがありません。
特に文化遺産は知識があるとおもしろさがまったく違います。たとえばヨーロッパを訪ねるのでしたらゴシックやルネサンスといった建築様式やその歴史などを知っていると世界遺産を何倍も楽しめますが、それも公式テキストで身につきます。
また、世界遺産を訪ねるときにはなるべくその世界遺産の正式名称を覚え、遺産価値がどこにあるのか世界遺産になった理由を確かめることがポイントです。たとえば「ヴェネツィアとその潟」は文化遺産の6つの登録基準のすべてに該当する数少ない世界遺産です。また「アマルフィ海岸」はイタリア随一のたいへん美しい海岸線で知られる世界遺産ですが、人間と自然が長い年月をかけて創り上げた共同作品である“文化的景観”が遺産価値として認められたものなので、自然遺産ではなく文化遺産なのです。
公式テキストを手に、こうした遺産価値に注目して世界遺産を訪ねれば、世界遺産を余すところなく楽しむことができると思います。
――これまででもっとも印象に残っているツアーは何ですか?
2007年にイラン南部の街・バムを訪ねたツアーです。バムには、2003年の大地震で大きな被害を受けて2004年に世界遺産に緊急登録された「バムとその文化的景観」があります。クラブツーリズムでは震災復興支援としてお客様の寄付金をバムに送っており、これを基に「アルゲ・バム世界遺産中学校」が開校しています。このツアーはイランの世界遺産を回ることに加えて、バムで日本の世界遺産保護や修復に対する貢献の様子を見学したり、世界遺産中学校を訪ねて親交を深める目的がありました。
バムにはまだ地震の跡が生々しく残っており、ご家族を亡くされた方もたくさんいらっしゃいます。でも、日本が送ったフォークリフトが作業していたり、世界遺産中学校ではお土産のサッカーボールで遊ぶ子供たちの笑顔を見ることもできました。
私たち添乗員の仕事は、お客様の海外でのお世話とともに、自分たちが勉強したことを、世界にたった一つしかない「地球の宝」である世界遺産を目の前にしてお客様に見どころをお伝えすることです。お客様を世界中の夢とロマンの旅へご案内することができる、実にやりがいのある仕事です。これからも世界遺産の素晴らしさをより多くのお客様にお伝えし、感動していただきたいと思っています。