――世界遺産スペシャリストの資格を持つ林さん。世界遺産をより楽しむためのポイントは?
自然遺産は自分の足で歩いて楽しんでいただきたいですね。聞こえてくる音や肌で感じる空気は、その場に行かないと体験できないもの。自然、地球の息吹というものを、五感全部でとらえていただきたいです。たとえば、私自身がぜひ訪れてみたい自然遺産のひとつである「イグアスの滝」。写真や映像を見るだけでも、もちろん素晴らしいですが、どんな水音がするのか、空気はどんな匂いなのか・・・・・・そうしたことは、行ってみないと感じ取れないと思うんです。
文化遺産をより楽しむためには、基本的な知識と想像力が必要だと思います。文化遺産の多くは、時の流れの中で以前の姿を失っています。知識がないと、“残骸”にしか見えないものも少なくありません。でも、「誰が」「いつ」「何のために」作ったのかを知ったうえで、往時のことやそれを作った人に思いを馳せる想像力を働かせれば、そこに壮大なロマンや物語がある。たとえば、古代、ギリシャ世界の中心として栄え、その文明を今に伝える世界遺産「デロス島」。私も訪れたことがあるのですが、予備知識を持たず時の流れのなかで風化した“モノ”としてみるのと、ある程度の知識をもって遺産・遺物に接し、古代人の思いを感じ取るのでは、旅の楽しみ、深さが違ってくると強く感じましたね。
――とくに文化遺産を楽しむためには「基礎知識」が必要ということですが、知識を得たいと思っている方にアドバイスをお願いします。
文化遺産を知るためのポイントは、「地理」「歴史」そして、「宗教」だと感じています。洋の東西を問わず文化遺産の多くは、寺院、聖堂など、宗教的遺跡ですし、その他の遺跡のもなんらかの形で宗教の影響を受けています。だから遺産を深く知るためには宗教を知ることが大切だと思うのです。宗教は奥深いものですから、私もまだまだ勉強中です。
――行ってみたい世界遺産は?
日本で言えば、「法隆寺地域の仏教建造物群」は何度でも訪れたい世界遺産です。仏教という現代の私たちの精神性や生活に深く根付いている宗教が伝来した当初の遺跡であり、私たちの「ルーツ」とも言えるのではないでしょうか。また、その思いを発展させ、インドをはじめとするアジアの仏教遺跡を訪ねる巡拝巡礼の旅も経験してみたいですね。
――世界遺産スペシャリストとして、旅のプロとして、心がけていることは?
世界遺産を学んで感じるのは、世界遺産が人類共通のかけがえのない「宝物」であり、守り伝えていかなければならないものであるということ。観光を楽しむ人にも、そうした思いを共有していただければと思い、折に触れてお伝えするようにしています。観光は、世界遺産をはじめとするさまざまな遺産を多くの方に知っていただき理解を深める素晴らしい手段であると同時に、その価値を損なう危険性もあわせもっています。たとえば、チャールズ・ダーウィンの「進化論」の着想のもととなったことでも有名な世界遺産「ガラパゴス諸島」。環境汚染などを理由に2007年に「危機遺産」に登録されましたが、その背景に観光客の増加があると言われています。観光業にとって、世界遺産をはじめとする様々な遺産は、かけがえのない「資源」です。だからこそそこに従事する人間として姿勢を正し、先陣を切って「守ることの大切さ」を深く理解し、伝えていかねばならないのではないでしょうか。世界遺産の学びをきっかけに、そうした思い、理解をしみこませることができると思うんです。今後、旅のプロを目指される方にも、この学びをおすすめしたいですね。